こんにちわ。
【ハチドリのひとしずく】という
南アメリカの先住民に伝わる物語をご存知ですか?
燃え盛る森の炎に、
一滴ずつしずくを落としている
「クリキンディ」というハチドリの物語。
監修:辻 信一さん
動物たちが逃げてゆく中、
クリキンディだけが火を消そうと懸命です。
動物たちが
「そんなことをしていったい何になる?」と笑い、
クリキンディはこう答えます。
「私は、私にできることをしているだけ」
*
この本の驚きは、
物語がここで終了していること。
いったいこの先クリキンディと森は
どうなってしまうのか?
「この物語には続きが必要」と思い、
続編を作成しました。
今日はそれをお届けします。
挿画もウタマロです。
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【ハチドリのひとしずく】その後の物語
小さなクリキンディは炎と水源の間を何度も何度も飛びました。
ポトリ・・・!
わずかな一滴を火の中に落とすのです。
けれど炎をはとてつもなく大きく強くなるばかり・・・。
動物たちは逃げ惑い、
森の木々は悲鳴をあげて焼け焦げていきました。
ポトリ・・・!
クリキンディの羽は疲れてきました。
煙で前が見えなくなってきました。
それでも、炎の上へ飛んで行き、
精一杯の一滴を落としました。
ポトリ・・・!
*
火柱は予期なく立ち上がり、
クリキンディの羽までも燃えそうになるのです。
クリキンディは意識がもうろうとなってきました。
「苦しい・・・僕は・・・もう・・・これ以上・・・飛べない・・・」
クリキンディは最後の一滴を落とし、
飛ぶ力を失いました。
軽い体は炎が巻き起こした風に煽られ、
クルクル・・・クルクル流されました。
やがて部族の村に落ちてゆきます。
闇の中でクリキンディは気を失っていきました。
*
・・・パサッッ!
クリキンディは草と木で編まれた小さな家の屋根に落ち、
そこから地面に落ちました。
「クリキンディ!」
クリキンディは人間の声に気づきました。
わずかに目を開けると、
黒い髪に黒い瞳、羽飾りをつけた見覚えのある姿。
友達の少年の手の中にいたのでした。
遠くで森が燃えていることに人も気づいたのです。
少年はクリキンディの意識に触れて言いました。
「クリキンディ、君は一人で火を消そうとしていたんだね・・・」
少年の涙が、クリキンディに落ちた時、
クリキンディは火傷を負った羽が癒されていくのを感じました。
少年はそっとクリキンディを撫でました。
そして振り向くと彼の父に言いました。
「父よ、このハチドリを見ましたか?
この小さな鳥でさえ、炎を消そうとしたのです。
人間に消せないわけがありません」
すると背の高い父が答えました。
「息子よ、私の意志は決まった。
私は火を消しに行く。
おまえは村の長のところへゆくのだ。
そして彼の意識の力を得るのだ」
父は水を汲むための皮袋を持ち、
すぐにそこを去りました。
少年はクリキンディを木の”うろ”にそっと休ませ、
暗闇を走りだしました。
月も星もない夜でしたが、
少年には道が見えているのです。
遠い空は赤い炎を映しています。
*
村の長の家の前には、
部族の者たちが集まっていました。
誰もが未曾有の森の火事に気づいていました。
家から年老いた男が出てきました。
部族の長はシャーマンでした。
「私の目はめしいている。(盲目という意味)
だが今回の炎がどれだけ大きいか私には見えている」
彼は黙り呼吸しました。
「これは我が部族が経験した中で最も大きな炎だ。
これを鎮めることはたやすくはない」
人々がざわめきました。
すると少年がするどく叫びました。
「みんなで火を消すんです!
動物たちには火を消すことはできません。
森の木々にもできません。
でも僕たちは人間です。
人間にはできるんです!」
場に静寂が満ちました。
すると長が微笑んで言いました。
「よう言った。
それでこそ、我が部族の息子じゃ。
私はできうる限り力を放とう」
彼は深く呼吸を整えました。
「・・・私はここに座り、精霊に祈りを捧げる。
だが私は老いている。
そして炎は大きい。
私の祈りは火の精霊・雨と水の精霊に呼びかけるが、
皆の力も必要じゃ。
炎はここから遠い。
皆で列をつくり、水源から水を運ぶのだ。
そして頑丈な者が炎に近づき、
炎に水を捧げよ。
皆で協力し水を運びながら
火の精霊、雨の精霊、水の精霊に祈るのだ。
祈りと行動が重なった時、
我らの力は最大になるのだから」
部族全員にそのビジョンが伝わりました。
*
人々は皮袋を持ち、暗い森へと向かいます。
こどもも大人も、
腰に結わえつけられた赤ん坊までが一緒でした。
部族の水源は岩の裂け目にある小さな泉だけでした。
そこから水を汲んで運ぶのです。
遠くの空は赤く唸り、
焦げた風がひっきりなしに吹いてきました。
誰も言葉を発しません。
人々は森の中にいる次の者へ、
重たい水袋を手渡すために黙々と動きました。
シャーマンは天に向かって祈りの言葉をあげています。
煙が流れてきました。
遠くでかすかにパチパチする音も聞こえてきました。
少年も心の中で祈りました。
*
ああ、僕らの森よ、生きてください。
ああ、ずっと生きて来た森よ、今ここで死なないで。
火の精霊よ、どうか怒りを鎮めて。
あなたが強いことを誰もが知っている。
雨の精霊よ、どうかここに来て。
あなたが慈悲深いことを誰もが知っている。
火の精霊の怒りを鎮めて。
あなたの力で森を癒して。
そして動物たちを助けて。
水の精霊よ、僕らの心を清めて。
僕らの怖れ、僕らの弱さを押し流して・・・。
*
東の空が明るくなってきましたが、
人々はそれに気づきません。
全ての人が祈りながら、
水を運んでいたのです。
少年の父は最も炎に近づき、
運ばれて来る水を捧げ、
火の精霊に祈りました。
*
やがて・・・わずかに涼しい風が吹きました。
人々がハッとして顔を上げた時、
そこに水滴が落ちてきました。
雨が!
雨の精霊が雲を引き連れやってきました!
小雨はすぐに強くなり、
それは豪雨になりました。
人々は空を見上げ、びしょ濡れになりながら、
喜びと感謝の祈りを捧げたのです。
焦げた匂いと一緒に
煙と水蒸気が風に乗って流れてきました。
豪雨は激しく続きました。
火の精霊が勢いを失ってゆくのを
森の誰もが感じました。
*
すっかり明るくなった時、
人々は炎が完全に静まったことを感じました。
こうして森の大半は救われました。
*
少年は父と家に戻りました。
そして木の”うろ”で元気を取り戻したクリキンディを見つけました。
少年はクリキンディに言いました。
「おはようクリキンディ。火は消えたよ。
僕らは森を守ることができたんだ。
君の勇気が、僕らの力を呼び起こしてくれたんだ。
ありがとうクリキンディ」
*
朝日が射してきました。
森がキラキラと輝きました。
大きな虹がかかりました。
完
Copyright©︎Utamaro izumi 2017
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私たちは大きな問題を目前にすると、
無力感に陥りってしまう。
それは頭脳は物理的な域までしか測れないから。
けれども私たちは推測不能な可能性をたずさえている。
目の前の一歩を踏み出すことで、
ミラクルな変容を起こすことができる。
クリキンディのように。
この物語は誰もがストーリー後半を創り出すために、
余白になっているのかもしれない。
あなたもクリキンディのオリジナルの物語を創ってみてください。
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森を守る農法を支援している
”ハチドリのひとしずく”コーヒーもあり、
私は愛飲しています。
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