izumiutamaro’s blog

泉ウタマロの新しいブログです。よろしくお願い申し上げます。

狩人と、白銀の鹿2




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





「ほら、こっちです。私を見て!」

 

 


はっきりとした声がしました。




けれど雪に閉じ込められた狩人の体は動きません。
まぶたを開くことさえできないのです。





すると声が再びしました。

さっきよりもさらにはっきりと、

 

 

 

 


「さあ、目をあけて、私を見て!」

 
 
 
 
 
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暗闇と雪の重みの中で、
狩人は自分のまぶたが開いているのかどうかもわかりません。
けれどもなぜか見えたのです。

雪原の中に立つ、白銀の鹿が。




鹿は真っ直ぐに彼を見つめます。

その灰色がかった瞳の力は強く、
狩人の中を貫きました。






 
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やがて彼がかすかにまぶたを開けると、
雪の重なりの中に、
小さな光がありました。
どうやら外の光のようです。
 
 


彼は凍った指先をわすがに動かし、
次に手首を動かし、
そして肩を動かしました。





「そうです。雪は深くない」
さっきの声が届きました。




「私の目を見なさい」
雪に埋もれたまま、狩人が目を閉じると、
再び鹿が見えました。
 
 
 

そして鹿に見つめられると体中に力がよみがえりました。

彼は雪の中でもがきます。




「そのキツネを離しなさい」鹿の声が届きました。
「キツネを離すのです!」





狩人は無意識にキツネをしっかりつかんでおりました。
それはとてもめずらしい、
銀色のキツネだったのです。
市場では高値で売れるものでした。




けれども彼は言われたとおりにしたのです。

 
 
 
 
 
 
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やがて森が濃い闇に沈む直前。
狩人は雪の中からはい出しました。




彼が雪の上に出て初めて見たもの・・・。
それは、雪の中の狩人に呼びかけた、
あの白銀の鹿でした。
 
 


星明りの下で、鹿は凛と立ち、
静かなまなざしで彼を見つめておりました。





狩人は雪の上に座り込んで思いました。
「なぜ、俺を助ける?」
 
 

彼は今までたくさんの森の生き物を、
殺して売ってきたからでした。




白銀の鹿はしばしだまって、狩人を見つめておりました。




 
 
 


星が美しい夜でした。雪もかすかに降っております。
チラチラチラチラ・・・。
まるで星降る夜でした。





森は静かに冷えてゆきます。
どこか遠くでフクロウの鳴き声が通りました。
 
 
 
 
 
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狩人は帽子も、ブーツも、銃も・・・
雪崩の中でなくしていました。
それでも彼には分厚い毛皮のコートがあります。




助かった安堵感と、
目の前にいる不思議な鹿の力で、
彼は座り込んだままでした。





白銀の鹿は微動だにせず、
真っ直ぐ彼を見つめ続けておりました。
そして声なき声で伝えてきました。





「これは私の愛なのですよ」
 
 
 

狩人は何も言えずに、
鹿を見つめ返してしまいました。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


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