この物語には1~4がございます。
1 http://ameblo.jp/izumiutamaro/entry-11746165963.html
2 http://ameblo.jp/izumiutamaro/entry-11746182085.html
3 http://ameblo.jp/izumiutamaro/entry-11750319102.html
4 http://ameblo.jp/izumiutamaro/entry-11752402062.html
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そこにはもう、掘り進むべき地面はありません。
ただ、ぽっかりと白い光の巨大な空洞があったのです。
モグリンは驚いてつぶやきました。
「わしはなーんも知らんかったな。地面の一番奥がこうだとは」
彼は疲れた手足を投げ出し、頭も地面につけました。
血だらけの手は、これ以上地面を掘る必要はありません。
しなくてはならないことは、もう何もないのです。
白い光はモグリンに降り注ぎます。
心地よい暖かさが、老いた体を包みます。
「なんだかいい気分じゃ。なんとも優しい気分じゃ。
なんだか救われる気分じゃ・・・」
彼はまぶたを閉じました。
それでも目を開いていた時よりも、ずっといろいろ見えたのでした。
やわらかく穏やかな光は、モグリンの体にしみこみ、
過去の気持ちにしみこみ、心の奥底にしみこんでいきます。
心の底には苦しいものが、ぎっしり詰まっておりました。
けれども白い光がとおって行くと、暗い想いが溶けるようです。
光はますます強まりました。
辛い想いはゆっくり溶けます。
「おかしなもんじゃ。どうしようもない人生なのに、
今となったら とてもだいじに思えてきたぞ・・・」
モグリンは目を閉じたまま考えました。
「そう言えば、みんな大切な連中だった」
彼は家族、友人、モグラの仲間、
そして・・・世界中全部に、優しくて懐かしい気持ちを感じました。
光はますますしみとおります。
傷の痛みはいつの間にか消えました。
いつしかモグリンは、自分自身のことでさえ、抱きしめたくなったのでした。
とても不思議な気分です。
「妙な感じだ、わし自身を許せるぞ」
彼は、自分の人生を愛おしく感じたのです。
こんな穏やかさは、生まれて初めてのことでした。
心地よくまどろみながら、彼は妻の気配に気づきました。
「この白くてあったかい光はいったい何かね?」
モグリンは彼女に尋ねました。
「あら、これがなんだかわからないの?
男の人って本当におばかさん」
妻は笑って答えます。
そして、そっと優しく夫の背中をなでました。
やがて白い光がモグリンの心全体を満たした時、
彼はかすかに微笑み、体を離れていきました。
光に溶けていったのです。
モグリンは光と一つになり、もう一度、その暖かさの一員になりました。
地面の奥の奥、小さなモグラのお話でした。
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これでこのお話は終わりです。
読んで下さり本当に感謝。
(*゚ー゚*)