izumiutamaro’s blog

泉ウタマロの新しいブログです。よろしくお願い申し上げます。

未来をかたどる物語:その1 《サヤエンドウの願い》

 

人間が本来創造主から与えられている機能を発揮したら世界はどうなるのか?
そのビジョンを垣間見たので物語に仕立てました。
暮らしを綴るショートストーリー。
とてもプラベートでささやかな一場面に秘められている変容の様子。
 
 
 

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未来の暮らしの物語:その1

《サヤエンドウの願い》

 

 

 

麗しい初夏のことでした。

よく晴れた午前中。

彼女は自分の菜園の手入れにひと段落し、

ポーチでお茶を飲んでいました。

 

 

 

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夏に向かう明るい日差しがポーチと菜園を満たしています。

野菜たち、草花たち、木々たちはこぞって育ち盛りでした。

優しい風が、彼らの香りを彼女の頬に届けます。

彼女は目を細めてその幸せに浸っていました。

 

 

 

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ところで、彼女には一つ気がかりなことがありました。

列に植えたサヤエンドウ。

その中の一本だけが何やら育ちが遅いのです。

 

 

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その一本を残し、他は支柱を頼りに自由に伸びて、

白い花も盛大に、たくさんのサヤをつけています。

 

 

ところが様子が違うその一本は、背丈の伸びがずいぶん遅く、

花も一つだけしかつけません。

そしてその花が、どうにかサヤをつけたのですが、

全体として「生育不良」にしか見えませんでした。

 

 

 

 

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「あの子、いったいどうしたの・・・?」

思考が静かに落ちていった時、

 

彼女に美しい半透明の羽が現れました。

やがて彼女の姿は蝶に変わっていくのです。

 

 

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これは彼女が意図したわけでなく、

彼女の内なる神秘が最適な方法を選ぶのでした。

 

 

 

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彼女はサヤエンドウのところへ飛んで行きます。

そしてごく軽くふんわりと、

サヤエンドウの葉にとまりました。

 

 

「くすぐったいわ」

サヤエンドウは蝶の到来を驚きと歓びで

はにかみながらつぶやきました。

 

 

「こんにちわ サヤエンドウ。あなた、どこか具合が悪いのかしら?」

蝶が尋ねましたが、サヤエンドウは黙ったままです。

 

 

 

「この私の細いチューブをあなたの茎に巻きつけてみるわよ」

蝶は言いました。

 

 

 

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彼女は自分の口である、細いストロー状の口吻(こうふん)を

細い茎に巻きつけました。

それはまるでサヤエンドウを抱きしめているかのようでもあります。

蝶は静かにサヤエンドウの命の鼓動を聞いています。

 

 

サヤエンドウのエネルギーは根から立ち上がり、

踊るように登って来ます。

萌黄色の導管を、エネルギーはリズムをとって躍動し駆け抜けるのです。

そして空に向かう先端で、エネルギーは天へと昇華してゆくようでした。

 

全ての機能は順調で、サヤエンドウは健康体そのものでしたが、

蝶は目を閉じ、しばらくそのまま感じていました。

 

 

「あなたには大きな望みがある。サヤエンドウ」

ずいぶん時間をおいてから蝶は言いました。

 

 

 

「その大きな望みはたった一つのサヤの中に、

たった一粒だけの実を大切に育てようとしているのね、

サヤエンドウ。違いますか?」

 

 

 

「そうですね。私の内面がそうですと、言っています」

サヤエンドウがかすかな声で応えます。

 

 

 

「それはとてもあなたにとって重要なこと。

とても・・・。

この季節に一番やってみたいこと」

蝶が言いました。

 

 

 

「そうだと思います」

サヤエンドウは同意したものの、その声は暗いのです。

 

 

 

「何か困ったことがありますか?

あなたはその宝の一粒だけを育てることに専念すれば

それでいいのだと私には思えますが・・・」

 

 

蝶がそう言うと、

サヤエンドウは震えて言いました。

 

 

 

「でもそれでは私はあなたに還すものがあまりにも少ない。

他のサヤエンドウはたくさんの花と実をつけられます。

 

私はたった一粒しか作ることができない。

そしてそれが本当に実って、

あなたにちゃんと差し上げあげられるかどうか、

それすらもわからない。

でもどうか、私のことを”できそこない”だと思わないでください」

 

 

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「なぜそんな言い方をするの?」

蝶が続けました。

 

 

「あなたは今度の春の自分の使命を完遂すればいいだけ。

その光の一粒が最終的にどうなるのか、

私にはわからないけれど、

でもあなたがそのためにこの春芽生えて来たとしたら

それはきっと大切なこと。

 

あなたの友達のサヤエンドウからたくさんの柔らかくて甘い実をもらうから

私はいいのよ」

 

 

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サヤエンドウはしばらく黙って何も言いませんでした。

まるで暖かな涙を流しているようです。

その細い巻毛も瑞々しい小さな葉っぱも微細に揺れました。

 

 

「ありがとう。蝶さん。いいえ、この菜園の主であるあなた。

私のところへ蝶の姿でやって来てくださりありがとう。

私の願いを見守ってくれてありがとう。

なぜ私がたった一粒だけを実らせようとしているのか、

まだ自分にもわからないけれど、

私の命は知っています。

 

 

だからその一粒がちゃんとみのったら、

どうかそれを見つけてください。

 

 

来年の種にするのが一番いいのか、

それともすぐに食べた方があなたの体に一番いいのか、

今の私にはわかりません。

 

 

もしかしたらその一粒が、

あなたが古い時代から持ち越した、

病の核を打ち消すことができるかもしれない。

 

 

 

この実が実った時、それははっきりわかるでしょう。

その時私はあなたにこの実の価値をお伝えできます」

サヤエンドウの声は小さくもキッパリとした口調でした。

 

 

 

蝶は優しくうなづいて静かにその口吻を外しました。

そしてそっとそこを離れて、元いたポーチに戻ります。

 

 

 

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彼女の羽は消えていき、元の人の姿に戻りました。

 

 

お日様が真上に来ています。

彼女は眩しそうにして、自分の庭を眺めました。

それは象徴された世界でした。

 

 

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彼女の中に宿る、創造主が創った世界。

そして彼女がより美しくしようとしている世界がそこにありました。

 

 

 

おわり

 

 

 

 

未来の暮らしの物語:その1

《サヤエンドウの願い》

 

 

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