izumiutamaro’s blog

泉ウタマロの新しいブログです。よろしくお願い申し上げます。

泉ウタマロ物語【許しを請う森】





ある暗い森の道なき道を、
女性が一人歩いています。




月もなく、風もない闇夜の中を、
明かりも持たずに進んでいました。








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やがて大きな木のそばを通りかかると、
その木には楕円の木戸がついていました。



人一人がやっと通れる、小さなものです。





彼女がそっと取っ手を引くと、
「キイッ・・・」わずかな音がして、
その木戸が開きました。






中には年老いた白髪の男が一人、
ひざまずき、祈る姿で彼女を見ました。

そして悲しげな口調で言いました。





「許して欲しい。私があなたに冷たくしたことを。
私があなたを愚か者扱いしたことを・・・」
彼は彼女が幼かった頃の教師でした。






彼女の心の奥には、その時の傷がありました。

けれども彼女は何も答えず、無言のうちにその扉を閉めました。







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しばらく行くと、また大きな太い木がありました。

そして同じような木戸があります。
彼女はそれを開けました。






「許して欲しい」
そこには老婆が一人、ひざまずいておりました。
それは彼女の祖母でした。






「私はあなたが描いた絵をバカにした。
でも、それは間違っていた。許して欲しい」


老婆は涙をこぼして懇願しました。






あの絵は彼女の心の絵でした。
彼女は無表情で扉を閉め、そこを無言で去りました。






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少し行くと、また同じような扉がありました。
「許して欲しい」







中にいたのは男性でした。
それは彼女と別れた人でした。





「私はあなたの元から去った。
でも・・・意味があったのだ。どうか、許してはくれまいか?」






その昔、彼女は彼が好きでした。
でもそれも悲しい思い出。

彼女は何も言わず、無反応な冷たい顔でその扉を閉めました。







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夜明けの来ない暗い森を、
彼女は静かに進みます。
いくつもの扉のついた木がありました。







たくさんの過去に出会った者たちが、
ひざまずいて彼女に許しを請いました。







彼女は誰とも口をきかずに、
静かにその場を去りました。






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彼女は森のこずえの間から、
暗い夜空を見上げます。

月も星もない深い暗さは、
彼女の辛い過去そのものでした。





夜は終わらず、風も吹かず、時は止まっているようでした。







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やがてまだ若い木の前を通りました。
とても小さな扉があります。







彼女がそれをそっと開くと、
そこにいたのは彼女自身の姿でした。






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「許して欲しい・・・」
その彼女はひざまずいて言いました。






「私は心を知っていたのに、いつもいつも邪魔してきたわ。
”大切な小さな想い”それはいつも後回し。
どうか・・・。どうか、許して欲しい」






彼女は何も答えずに、黙って扉を閉めました。






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けれども歩き出した時、
何かが突き上げ、苦しい涙がこみ上げました。
それは途方もない量でした。






頬を伝い、首筋を流れ、胸を濡らし、彼女は地面をポタポタ濡らして行きました。

涙は果てしなく続きます。







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そしてずいぶんたちました。




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とうとう森が終わった時、
彼女は見晴らしのいい場所に出ました。





朝もやが漂い、大気は春です。







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太陽の光は空を渡り、森に届き、彼女の心に射しました。





森は彼女の背後にあります。
けれども心は暖まり、涙の跡が輝きました。












もうすぐ風がやって来ます。
そしてもうすぐ小鳥が来ます。





やがてまもなく・・・
彼女に新しい歌が生まれます。







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はじめましての方へ。
泉ウタマロは作家、アーチストです。

よろしくお願い申し上げます。