izumiutamaro’s blog

泉ウタマロの新しいブログです。よろしくお願い申し上げます。

落ちぶれた男と、モクレンの木(後編)

 
「私はあなたのことも知っています」
モクレンは続けました。
 
 


 
****
 
 


この物語は2部でございます。

 


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「あなたはギャンブルにのめり込み、
それに負け、大酒を飲み、健康を害し、
破産し、家族と別れ、家を失って、
こうしてここに立っています。






あなたは自らの奥の、その奥にある輝きを忘れ、思い出せず、
自分は愚か者だと思ってそこに立っています」






モクレンの口調はきっぱりとしており、
そして淡々と続けました。
 
 




 
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「でも、よく見てください。
あなたの知っているあなた自身の奥の奥に、
本当は何があるのか、を」






彼は茫然として、しばらくそこにおりました。
太陽はいつになく黄色い光を放ちます。
風はますます冷たく、そこには何の希望もないようでした。






 
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男はゆっくりうなだれて、
何も言わずにモクレンに背を向け、
再び歩きはじめました。
 
 


 

重い荷物が肩に食い込み、
痛む膝をかばいながら進みます。
 




けれども彼の心は、その時そこにいませんでした。
心は深くに降りたのです。
 


 
 
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草だらけの道を曲がり、少し坂を下った所で、
男は突然振り向きました。
 

 

そして膝をガクガクさせながら、急ぎ足で戻ってきました。






「俺が・・・救ってやる!」
 

 
 
 
男は一言そう叫び、
彼は荷物を放り出すと、
廃材の中から錆びたシャベルを見つけてきました。







そしてモクレンの根元の土を、
無我夢中で掘り始めたのです。
 


 

モクレンは何も言いません。
 




彼は無骨な手で必死になって掘っていきます。
汚い上着が、なおのこと汚れました。



 

けれども彼は、膝と腰が痛むことや、
指から血が出てきたことを気にしません。






彼はもくもくと、その仕事に没頭しました。







 
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丸一日かけて、彼はモクレンを掘り上げました。
そしてゴミ置き場にあった、破れたビニールで、
モクレンの根をくるみました。






「ほらよ、俺がかついでやるさ」
 


 

彼は力のない腰でモクレンを背負いました。






それは予想以上に重たくのしかかりましたが、
彼は力を振り絞り、一歩一歩進みました。







 
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ゆるい上り坂を進み、
途中何度も休憩しながら、
暗くなる直前に小さな寺に着きました。







男が門をたたくと、
一人の若い僧が丁重に彼を迎えました。
 



 

僧は事情を聞くと、彼を一晩泊めました。
モクレンは根をくるまれたまま、庭の隅で眠ったのです。






 
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翌朝男は、その寺の庭にモクレンを植える穴を掘りました。




 
 
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それも時間のかかる仕事でした。
けれども彼はほとんど休まず、
夢中になって掘ったのです。







****
 
 


夕暮れが近づいた時、
モクレンはとうとう地面に植えられました。
 

 
 

若い僧と、年とった住職が庭に出てきてそこに佇み、
モクレンを静かに眺めました。







男はなんだか晴れやかで誇らしげな気分になり、
その木を見ました。
 
 

 

モクレンは黙ったままでした。

なぜなら・・・
彼の魂の光を、ひたすら浴びていたからでした。
 
 



 
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彼は曲がった腰を伸ばしました。


 
 

そして去り際、もう一度モクレンを見つめ、
その奥にある光を感じたのです。





彼らはこうして別れました。






春、まだ寒い、夕暮れのことでありました。
西の空に、光が一筋とおりました。






 
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*   
 
            *


     完


      
                   *




        

 

 

 

 

 

 

 

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