izumiutamaro’s blog

泉ウタマロの新しいブログです。よろしくお願い申し上げます。

落ちぶれた男と、モクレンの木(前編)

 
 
 


ある、春先の寒い早朝のことでした。
ケヤキのこずえの向こう側には、
星が冷たくまたたきました。

 

 

 

 

 

 

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みすぼらしいなりの、年とった男が一人、
足を引きずりながらやって来ます。

 

 

 

 

 


そこは町からそう遠くない、
廃材と粗大ゴミが捨てられた場所でした。

 

 

 

 

 



 
 

彼はその捨てられた物の中で、数日暮らしていたのです。






男は汚れたボロボロの上着の襟を立て、
身を丸くして、寒さに耐えつつ歩いて来ました。

彼は空腹で、これから町に行こうとしていたのです。






ただし、そこで食べ物が得られるのかは、
定かではありませんでした。







 
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+・*・+・*・+・*・+





彼が雑木林の道を震えながら歩いて行くと、
その脇に小さなモクレンの木がありました。







モクレンは幼い木であるにも関わらず、
春に向けて小ぶりなつぼみをつけていました。







男は薄汚れた大きな荷物を担いで、
モクレンをチラリと見ました。
 


 

そして「フン!」と小さく鼻で言い、
再び歩きだしました。





すると・・・





「あなたは自分の奥の輝きを見つめていない」
するどい口調の声がしました。






 
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彼が驚いて振り向くと、
どうやらそれは先ほどのモクレンのようでした。







「あなたは自分の奥の輝きを見つめていない」

モクレンの声は再びするどく言いました。





「なんだって?!」

 
男はイライラし、木のそばに近づきました。






するとモクレンは毅然とした口調で言いました。





「私の花は、堅く乾いた地味な色の殻に覆われています。
けれどその中に白く、
美しい花びらが生まれているのを知っています」






「それなら・・・」
男はニヤニヤしながら言いました。







「いいことを教えてやろう。
ここはもうじき新しい道路を造る工事が始まる。
あそこの看板に書いてあったさ。
お前さん、なぎ倒されてペシャンコだ」






彼は勝ち誇ったように言いました。




するとモクレンはとても静かに答えました。





「そうですね。とても残念なことですが、
私もそれを知っています。
知っていて、生まれて初めてのつぼみを、
こうしてつけているのです」





小さな木は続けました。





「私は自分の中の、美しさと、可憐さ・・・
たゆたう夢を秘めているつぼみを
とどめておくことはできません。

たとえ花開く前に滅ぶ身だと知っていても・・・です」







 
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男はモクレンの言葉が理解できず、
黙って聞いておりました。





モクレンは続けます。





「そして、本質的な私自身は、誰にも壊されることはありません。
なぎ倒されることも、死ぬこともありません。





私は、私自身の枝や、つぼみ、
そして根っこが私自身だとは思っていません。
私自身の本質は、やさしさと美しさ。
春を唄う純粋な心です」
 
 



モクレンはそこまで言うと黙りました。





東から光が射してきました。
風の強い、寒い朝です。
雑木林と、草むらが乾いた音で鳴りました。







 
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****
 




男はモクレンを見つめ、
無表情で立ちつくしておりましたが、




「私はあなたのことも知っています」
 
 

・・・そう、モクレンが言った時、
彼は険しい目つきでその木を見ました。






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続きもアップしております。
(*^ー^)ノ


後編はこちら(=゚ω゚)ノ