この物語には1・2がございます。
1 http://ameblo.jp/izumiutamaro/entry-11746165963.html
2 http://ameblo.jp/izumiutamaro/entry-11746182085.html
***********
モグリンがやってきた水晶の洞窟は、時間の止まった場所でした。
その無言の光と色の中に、透明の精神が宿っているのを彼は感じたのです。
「・・・そうさな」
モグリンは思い出したのです。
「こりゃ~夏の初めのツバメに似とるわ」
::::::::
五月の風に乗って来るその鳥は、モグリンにとって魅力的なものの一つでした。
ツバメは自由に風を切りさき、風に乗り、
まるで風の使い手でした。
季節は夏に向かっています。
地面からは温かい土の匂いが立ち昇り、
レンゲの花が笑い、お日様は特別陽気です。
土のトンネルの中で、モグリンは見えなくてもツバメを知っていたのです。
お日様が一番高いところに来た時、
ツバメはそれを真一文字に横切ります。
モグラが一生見つめることのできないお日様の光を突っ切って、
ツバメは飛んで行けるのです。
本当のところ、モグリンは悔しさを感じておりました。
ツバメを妬ましく思っていたのです。
そして暗い土の中で、一生泥にまみれて暮らす自分を、
情けなく思っていたのでした。
なんといっても、自分を情けなく思う自分自身が、嫌でした。
::::::::
水晶には何の悩みもなく、欠点もなく、
ただただ純粋さと美しさだけでした。
その存在はモグリンにとってツバメと同じでありました。
水晶の洞窟を眺めながら、モグリンはその時の辛い想いを反芻しました。
結晶はどこまでもどこまでも透明でした。
凝縮された時間が、そこにとどまっておりました。