この物語は前編がございます。
http://s.ameblo.jp/izumiutamaro/entry-11841655902.html
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精霊の体は半透明で、さらに娘に近づくと、
一歩進んで娘と一体になりました。
彼女自身と精霊が重なったのです。
その瞬間、森の声が遠のきました。
風は止まり、光はとどまって動きません。
すべての時がありました。
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異様な時空のその中に、精霊と娘は重なったまま立っていました。
やがて精霊は彼女の中で言いました。
「そなたの働きと、そなたの織る布は、人々の役にたっている」
「はい・・・」
娘は小さくうなづきます。
「おとといも、昨日も、今日もそうだった」
精霊はすべてを知っていました。
娘は今朝も暗いうちから、一人”はた”に向って働いていたのです。
精霊の声は深く低く、そして力強く響きます。
「それなのになぜ、明日の自分を信頼できないのかね?」
精霊の指摘に、娘は何も言えません。
「そなたが人々に有益な布を織る」という純粋な気持ちでいる限り、
それは不変なものとは思わないかね?
娘は目を閉じ聞いていました。
精霊は続けます。
「すてべては意図なのだ。
その意図が変わらぬ限り、今まだは織られていない布も、
過去のものと同様に、そして・・・それ以上に価値がある」
「過去、今、未来。
すべてにおいて、そなたの仕事を認めることだ。
さあ、立ちなさい」
娘が立ち上がると、精霊は彼女から離れ、水面に立ちました。
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とたんに森はいつもどおりになりました。
小鳥たちは呼び合い、風は笑い、花の香りもしています。
時間が流れはじめ、命が輝き、再び世界がめざめました。
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「そなたがそれを知ることで、力は完璧な円になる。
我々は、その時こそ本当にそなたの助けとなるのだから」
精霊は娘の右手を優しく握り、続いて、左手を握りました。
精霊と娘は輪になって手をつないだのです。
威厳のある精霊の顔が、ほんのわずかにほほ笑みました。
娘もようやく微笑みました。
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やがて泉に風が吹いた時、精霊の姿は消えました。
美しい娘の姿だけが水面に揺れて映っておりました。
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泉ウタマロワールドのショートストーリーは、
書籍にもなっております。
ご興味ある方はこちらです→月明かり物語 1・2巻