ある夏の初めのことでした。
二匹のイモ虫が同じ葉っぱをかじっています。
「おい、そろそろ俺たちも将来についてマジに考えなきゃなんねぇな」
茶色い一匹が言いました。
「そうですね。僕は自分がどんなに綺麗な蝶か楽しみなんです」
緑の一匹が答えました。
すると茶色が言いました。
「バカだなお前、蝶どころか、蛾かもしれねぇじゃないか」
緑は驚いて訊きました。
「そうなんですか?
僕はいろんな花のおいしい蜜を吸ってみたいなぁ・・・」
すると茶色はあきれた口調で答えました。
「お前、世界へなんか出てみろ、鳥やら人間の子どもやら、
農薬やら、放射能やら、チョーハイリスクさ!」
「それじゃあ・・・」緑がききました。
「どうするおつもりですか?」
茶色は声を落として答えます。
「決まってるだろ、一番安全な道、サナギのまんまさ!
たとえローリターンだろうが、ローリスク。
こんな時代にゃそれが一番賢い選択!」
二匹はその後サナギとなりました。
そして夏の晴れた朝、緑のイモ虫は美しい大きな蝶に生まれ出で、
期待を胸に飛び立ちました。
茶色はサナギのままでした。
数日後、蝶はサナギに会いに来ました。
少し羽が傷んでいます。
「こんにちは、外の世界はびっくりですよ」
するとサナギの中から声がします。
「そうだろ、危険の連続に決まってら」
蝶は羽を休めて言いました。
「ええ、毎日命がけですよ。でもバラの蜜を吸ったり、
風に乗ったり、それに僕・・・
今、恋をしているんです。そちらはいかがですか?」
「俺はな、変わったことは何もない。
もちろん毎日がおんなじさ。おんなじ、おんなじ、おんなじ、おんなじ・・・」
サナギはブツブツ言っています。
「じゃあ、最高級に安全ですね」蝶が明るく言いました。
するとサナギは言いました。
「俺はな、つくづくわかったよ。
おんなじってのが、どんだけ飽きるか。
飽きてどんだけたいくつか。
たいくつってのが、どんだけ人生にハイリスクかってことがさ!」
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どうやら……そうみたいですね。
(⌒-⌒; )