彼は船の上でピアノを弾いていました。
今日は大切な友人に向けての演奏です。
友人というのは船の上を漂う魂でした。
それは先日事故で亡くなったばかりの友でした。
彼は友人に感謝を示したかったのです。
以前奏者が、音楽を認められず、
発信する方法もわからなかった時、
その友人が励ましてくれました。
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友人はiPhoneのアプリを使い、
iPhoneからの光の投影でテーブルに映し出された
ピアノの鍵盤を演奏する方法を彼に教えてくれました。
そして公園や、森の中、ビルの屋上、
あるいは花畑の中、暗い星空の下などで演奏し、
それを USTREAMで世界配信するように勧めてくれたのです。
彼がなにげなく演奏していると、
様々な人がやって来ます。
一緒に演奏したがる幼稚園生。そっと微笑む老夫婦。
不思議な表情で見つめるカラス。
通りすがりの猫・・・。
彼のメガネについている、とても小さなカメラから、
視線の先を動画配信できました。
映っていたのは音楽だけではありません。
彼が感じている素晴らしい瞬間が伝わったのです。
地上における美しい光と風の一瞬。
地上における美しい人生の一瞬でした。
彼自身は演奏しながら心の中で口ずさみ、
いつも自然体でいたのです。
やがて・・・
世界が彼を見つけた時、彼自身が驚きました。
しかし友人は「僕はそうなると思っていたよ」と言ったのです。
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今日はその友人の散骨の日でした。
明るい夏の空の下、海と風にそれらはとけていきました。
友の魂は微笑み、次の目的のため
地上を去って行ったのでした。