その若い僧侶は夕暮れ時、森の中で考えていました。
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「今日の私の発言は、完全にあの人の為だっただろうか、
わずかでも自分の為のものではなかっただろうか?」
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いつも彼はそうやって悩んでしまうのでした。
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そこへ老師が通りかかりました。
「今日もまたいつもの悩みかね?」
弟子は震える声で答えます。
「申し訳ありません。わずかばかりの我欲が残っております」
すると師は不思議そうに尋ねました。
「なぜかね?」
すると師は不思議そうに尋ねました。
「なぜかね?」
弟子は恐縮して答えます。
「そ・・・それは私がいまだに不完全であるからでしょう」
「なぜかね?」
老師が再び訊きました。
弟子は泣き出しそうになりながら答えます。
「そ・・・それは私が未熟者で、愚か者で、修業が足りないからでありましょう」
それを聞いた師は言いました。
「そなたは数ある弟子の中でも一番厳しく修業しておるではないか」
弟子は悲しくなり、声を立てずに下を向いたまま涙をこぼし始めました。
すると師は続けました。
「そなたは勘違いしておるようだ」
弟子はハッとして老師を見上げました。
師は続けます。
「そこに咲いておる紫陽花を見よ。
みごとな美しいさじゃ。
だがいつかは散るであろう。
ゆえに、これは不完全かね?」
弟子は息をのんで聞いています。
「このブナの森を見よ、今は青々と勢いがある。
じゃが冬の間はまるで枯れ木じゃ。
ブナは未熟者かね?」
弟子は戸惑った表情です。
「あの暮れてゆく太陽を見よ、一日の半分しか働かない。太陽は愚か者かね?」
「月などはひと月に一度しか満ちた姿を見せはしない。
月は修業が必要かね?」
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老師は笑いながら去りました。
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弟子は少しの間、その言葉を考えておりましたが、涙は乾いておりました。
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