あるところに魔法の種を撒く女の子がいました。
なぜ魔法の種だったかというと、
その花を見て、香りをかぎ、花びらに触れると誰でも自分の中の才能に気づけたからです。
種は空色でしたが、
花の色は千差万別でした。
見る人それぞれが望む色で咲いたのです。
そのうえ四季を問わず次々と絶え間なく開きました。
町の人々は花を愛で、
花を見つめていると自分の無限な可能性を発揮できるのでした。
それが魔法の花と言われるゆえんでした。
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ところで、
花の種を育て、種を撒くその女の子には願いがありました。
「町の外の広い世界に、この空色の種を撒きたい」
彼女は父親に言いました。
すると彼は怪訝そうな顔で言います。
「なぜ外までいかなくちゃならないんだね。
この町で撒けばたくさんじゃないか」
そこで町の人々にも相談しました。
ところが彼らも父親と同じ意見でした。
彼女は深く失望しました。
彼女はとぼとぼと町のはずれまでやって来ました。
この町はてっぺんが見えないくらい高い塀に囲まれているのです。
どこにも門はなく、表面はつるつるでよじ登ることもできません。
女の子は思いました。
「ああ、私に翼があったなら、
この塀を超えて世界の人々にこの種を届けられるのに」
彼女は一心に願いました。
自分の背中に翼が現れるように。
ある日目覚めた時、窓辺にハトがとまっていました。
清々しい朝の光が射しこんでいます。
彼女はハッとして鏡の前に立ちました。
・・・けれども、今日も翼はついていませんでした。
こうして随分長い季節が過ぎました。
彼女は乙女になりました。
そしていつしか翼について願うのを忘れました。
ある晴れた夏の日、
彼女は久しぶりに散歩にでかけました。
何年かぶりに町のはずれまできたのです。
その時でした。
彼女は遠くを見たのです。
・・・つまり、あのそびえたっていた塀が
すっかり消えていたのです!!
彼女は歓び叫んで駆け出しました。
遠くの丘も、山も、空もそこには続いていたのです。
彼女はついに言いました。
「ああ、私の願いはかなわなかった。
でも私の祈りは通じていいたのね!!」
こうして彼女は広い世界に種を撒く旅に出たのです。
空が青い、青い、朝でした。
遠くに雲がありました。