ひどい吹雪の夜、アリの家のドアを叩いたキリギリスは凍え死ぬ直前でした。
仕方なくキリギリスを中に入れたアリは、ぶっきらぼうに訊きました。
「それで、あんたは何を私たちにくれるんだい?」
アリたちはキリギリスを取り囲みました。
とても冷たい視線でした。
キリギリスは凍った口元が溶けて来ると小刻みに震えながら言いました。
「わ・・・私があなたがたに差し上げられるものですか?」
「そうさな・・・」家長らしいアリがキリギリスを値踏みするように言いました。
とりあえず、音楽でもやってもらおうか。
キリギリスは手足がこわばり、おなかもペコペコでしたが、
暖炉のそばで体を暖め、切れていたバイオリンの弦を張りなおしました。
キリギリスがポケットから蝶ネクタイをとりだしてつけると、
とたんに背筋が伸びました。
そして軽快なダンス音楽を一曲弾きました。
アリたちはぼーっと聴きいります。
次にワルツが流れました。
アリたちはかすかにおしりを振ります。
最後にスローテンポなロマンティックがかかりました。
アリたちはだまりこくって訊いています。
中には泣いている者もいたのでした。
演奏が終わるとアリたちはいっせいにおしゃべりをはじめました。
そのにぎやかなこと。
キリギリスにもふんだんにごちそうがふるまわれました。
やがて皆の幸せが満ち満ちた時、
アリの家長が言いました。
「キリギリス君。わしらやっと気づいたよ。
我らアリ族は確かに働き者じゃ。
どんなに暑い夏も汗水たらして仕事する。
そして冬はすることもなく穴倉の生活じゃ。
働いてそして死んでゆく。それがわしらの一生だと思っておった。
それに比べてあんたはなんて楽天家なんじゃ。
先々のことも考えず、遊びほうけおって。
だが、そんなあんたにわしらは嫉妬しておったようじゃ。
今気がついたんじゃがな。
どうかね、わしらにも音楽の楽しみを教えてくれるかね。
冬の間はここで暮らすといいさ」
キリギリスが喜んだのは言うまでもありません。
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こうして共同生活がはじまりました。
最初にキリギリスはアリに弦楽器を教えようとしました。
しかし失敗。次に笛を試みましたがこれもダメ。
短すぎる手足は楽器に向いていないのです。
そこでキリギリスは小さなカスタネットをたくさん作りました。
これにはアリも大喜び。
みなで合わせて楽しめます。
次にキリギリスはアリに「詩作」を教えました。
ところがアリにはそっちの才能が全くないようです。
作詞作曲はキリギリス担当に決まりました。
そんなこんなで冬は楽しく過ぎました。
春になると、キリギリスはアリに畑仕事を教わることになりました。
ところがへっぴり腰のキリギリスはまるで力がないのです。
すぐに疲れてしまいます。
とてもその働きぶりでは、蓄えるまでにいたりません。
キリギリスはみじめになり、自分のふがいなさに涙しました。
一方アリは働いて働いて稼ぎました。
貯めて貯めて一心不乱に貯めました。
そうしてふと、これだけで一生を終えるのは、むなしくないかと思いました。
両者は再び会いました。
キリギリスは音楽と、詩と、歌を。
アリは豊富なごちそうと、冬の寝床を提供しました。
互いの生活は豊かになり、心は満たされ、そしてゆかいになりました。
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こうしてこのお話は終わりです。
すべての生き物がよりそうと、お互いに幸せをつくることができるのでした。
めでたしめでたし。
めでたしめでたし。
( ̄▽+ ̄*)