この物語は1・2・3・4 がございます。
1 http://ameblo.jp/izumiutamaro/entry-11711678210.html
2 http://ameblo.jp/izumiutamaro/entry-11714893431.html
3 http://ameblo.jp/izumiutamaro/entry-11715483391.html
4 http://ameblo.jp/izumiutamaro/entry-11717292770.html
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ツルの祭典が終わった翌朝、
日の出 間近な聖なる谷のツルたちは、
それぞれの故郷目指して出発します。
たった一人で来ていたツルは、なごり惜しくも見送りました。
「ここは早く去った方がいい」
西の風が言いました。
「雪嵐がやってくる」
南の雲が言いました。
「でもあたし・・・どこへ行けばいいのか、わからないわ」
孤独なツルは言いました。
「古い世界に戻りたくない」
それはあの老いた教師がいる、故郷の学校のことでした。
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もちろんその老いた教師にも
ツルの祭典から発信されたものが届いておりました。
祭典の最後の踊り-”切なさ” が教師の胸にとどまります。
「私は・・・」教師はつぶやきました。
「私の仕事は生徒の未熟さを見つけ、するどく指摘し、矯正すべく鍛錬することだった。
そういえば・・・どの子も切ない顔をしていたな」
教師は感慨にふけります。
「私の一生は、あの表情を見続けてきた。
それは当たり前のことだった。
教師の仕事とはそういうものさ」
老いたツルは夜明け前の校庭にやってきました。
その時、教師はさみしげにうなだれる、とても幼いツルの残像を見つけたのです。
それはずっと昔、厳しい教師に認めてもらえなかった自分自身の姿でした。
老いたツルは立ちすくみ、小さな自分を抱きしめたくなりました。
けれどもそれはただの面影。
ただの悲しげなまなざしでした。
老いたツルはため息をついて、雲に覆われた榛色(はしばみいろ)の空を見上げます。
冬の予感と共に、切なさと・・・失われた時がありました。
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一方、聖なる谷のあのツルは、いまだ悩んでおりました。
他のツルたちは隊列を組んですべて去り、
彼女は一人ぼっちになっていました。
怪しげな息遣いの、厳しい嵐が近づいています。
「あたし故郷になんか帰りたくない」
ツルが言いました。
「そうさ、帰る理由は別段ないよ」
西の風が上機嫌に言いました。
「君の踊りは・・・ふるさとにも、隣町にも、そのまた隣町にも、すっかり届いたんだから」
南の風が意気揚々と言いました。
「じゃあ、あたし・・・。行きたい世界を旅していいの?」
ツルは遠慮がちに言いました。
「もちろんだとも、そうこなくっちゃ!!」
西の風と、南の雲が口をそろえて答えました。
そして軽々とツルを持ち上げ、聖なる白い谷を旋回しながら上昇しました。
北の峰から雪嵐の黒い唸りが迫っています。
「さあ、高く高く飛ぼう!」
西の風が言いました。
「自由に世界を旅しよう!」
南の雲が言いました。
その時ツルは初めて笑い、翼は風をしっかりとらえ、気流に乗って去りました。
夜明けが遠くに見えました。
ほんのりと、紅色(くれないいろ) がさしました。
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これにて結果的に長編となった「ツルの祭典」を終わります。
(*゚ー゚*)
読んで下さり感謝。
いずれ音楽とともに朗読できる日が来たら嬉しい。
およそ40~45分の大作なるか?!
( ゚ ▽ ゚ ;)