その女性は自宅内の断捨離を実行中でした。
磁場修正のスペシャルマイスターは、
≪すべての持ち物において ”所有理由” を明確にせよ≫と
提言していました。
彼女は衣類・食器・本・書類・・・ありとあらゆるものの”所有理由”を明確にして、
本当に必要不可欠だけを残したのです。
そんな中・・・一つ疑問が湧きました。
「私が私を”所有する理由”ってなんだろう・・・」
彼女は考え込みました。
何日も、何日も考えましたが、それはわかりませんでした。
とうとう彼女は市の清掃課に電話しました。
すると職員は
≪500円のごみ処理券を購入し、自宅前に出すように≫と指示してきました。
ただし・・・
≪朝8時ではなく、夜8時に≫との注意です。
指定の木曜夜になりました。
彼女は言われたとおり、処理券を額に貼り付け、
自宅前の階段に座っていました。
月のない静かな秋の晩でした。
わずかな星がありました。
やがて大型トラックがやって来て、清掃職員が彼女を荷台に載せました。
ホロのない荷台には、額に処理券を張り付けた人たちが20人ほどもいたのです。
体育座りした人々の顔は暗く、その表情は見えませんが、
口をきくものはいませんでした。
***
車はすぐに出発しました。
国立・府中インターから高速に乗り、下り車線に入ります。
街並みを越え、林の中を過ぎ、トンネルをいくつもいくつも抜けました。
指定の木曜夜になりました。
彼女は言われたとおり、処理券を額に貼り付け、
自宅前の階段に座っていました。
月のない静かな秋の晩でした。
わずかな星がありました。
ホロのない荷台には、額に処理券を張り付けた人たちが20人ほどもいたのです。
体育座りした人々の顔は暗く、その表情は見えませんが、
口をきくものはいませんでした。
***
車はすぐに出発しました。
国立・府中インターから高速に乗り、下り車線に入ります。
街並みを越え、林の中を過ぎ、トンネルをいくつもいくつも抜けました。
風がどんどんとおります。
彼女は夜空を見上げていました。
暗い木々の間から、星が時々またたきます。
乗客は押し黙り、各々が暗く、各々が孤独な旅でした。
彼女は星を見つめていました。
車は走り続けます。
***
やがて彼女は最近のことを想います。
「私・・・ずいぶん夢中で片付けた。」
未来のために懸命だった、自分がそこおりました。
さらに20代を想います。
「私・・・就職した頃必死だった」
要領の悪さを克服しようとしていた、自分がそこにおりました。
そして学生時代を想います。
「私・・・担任には理解してもらえなかった」
それでも努力していた自分がそこにおりました。
さらに子どもの頃を想いました。
「私・・・とっても孤独だった」
それでもどうにか生きていた、自分がそこにおりました。
***
車はひた走り、風がどんどんとおります。
星はひたすらついて来ました。
***
そして彼女は気がつきました。
「そう言えば私・・・ずっと一緒にいたんだわ!」
彼女は両腕を体に回し、ギュッと自分を抱きしめました。
涙がひたひた流れていきます。
胸がびっしょり濡れました。
車はどんどん走ります。
林を越え、森を抜け、いくつもトンネルを抜けました。
***
とうとう車が止まりました。
清掃職員が彼女に言います。
「さあ着きましたよ。ここがあなたの居場所です」
それは自分の家でした。
彼女はすっくと立ちました。
***
夜はずいぶんふけていました。
星が優しくまたたきました。
***
**
*