izumiutamaro’s blog

泉ウタマロの新しいブログです。よろしくお願い申し上げます。

智の長老たち





「それでは・・・」





長老の一人が言いました。
「今夜の議題に入ろうか」










そこは、ほの暗い場所でした。



スーツ姿の若い男が一人、
小さな木の椅子に座っています。







そして彼を取り囲み、
白ひげの、威厳を放つ老人たちが、
ぐるり座っておりました。




一様に白い僧衣をまとっています。







そこは若い男の「夢の場」でした。

彼は自分の夢の中で、
会議に出席していたのです。









{3D11FC2E-4FF8-4A2D-8F4D-4BCAFE579C87:01}








「オレの掲げた問題は何一つ解決してない!」
若い彼は不満げに言いました。







すると長老の一人が言いました。

「そうじゃな。そなたは困った現状を繰り返し訴えてきた」






声はしたものの、どの長老が発したものか、
彼にはわかりませんでした。
彼らは無表情で話すからです。






若い男はすぐ本題に入りました。





「俺の解決したい問題はこれだ。





1 今の収入では足りない事
2 やりたいことはわかっているのに、
そちらに進めない事
3 いつも彼女にふられてしまう事
4 いつまでたっても水虫が治らない事






今まで何度頼んだと思ってるんだ!」
彼はキレぎみに言いました。







長老たちは静かに聞いておりました。
誰も表情を動かしません。






おもむろにそのうちの一人が答えます。






「我々は、あなたが問題にフォーカスしていると、それを助けることができない。

なぜなら、フォーカスしているそのものにしか、
エネルギーを与えられない」







別の長老が続けて言います。







「我々はそなたが想う、
その事・・・そのものに、
エネルギーを与えてしまう。

望ましいビジョンにフォーカスすべきじゃ。
そうすれば我々はそなたの望みにいくらでも援助できるであろう」






彼は暗い表情で、ぐっと黙ったままでした。









{3FFFE57A-E06D-496E-A615-60557F0AB45C:01}








するとまた別の長老が言いました。







「あなた方は問題が深刻であればあるほど、
問題そのものについて考え、
理想的なビジョンを想い描こうとはしない。

問題を分析し、集中し、そして解決するようにと教育されておるからじゃ」








さらに別の長老が言いました。







「冬を越して花をつけるものたちを見たまえ。
彼らはなぜ咲けるのか。


どんなに厳しい雪嵐でも、
自分が美しく咲くその瞬間を、じっと想っているからだ。
水仙も、雪柳も、スミレもな・・・。


彼らが冬を恨み、凍りつく地面をどうにかしようと思っていたなら、
けして春には咲けないじゃろう。

彼らはいわば夢想家なのじゃ。
やがていつかはそのとおりになる」








また別の長老が言いました。







「我々の力が欲しければ、
我々にそのビジョンを見せてもらおう。
我々はそのビジョンに従うであろう。




幼い鳥が初めて巣穴から出て飛ぼうとする時、
小鳥は”落ちるかもしれない・・・
”という事に、意識を向けてはいないのだ。

彼らは”あの空に羽ばたきたい!
”その事だけに、意識を向けているのだよ。




花たちも、幼い鳥も何も心配していない。
それゆえ咲くことができ、飛ぶことができるのじゃ」





場に沈黙が流れます。





やがてまた別の長老が、
低い声でつけたしました。






花にも鳥にも迷いはないのだ。

しかし彼らはそれ以外のことを想像しない。
そして想像しないということは・・・
今、以外のものにはなれない・・・
という事なのだ」











{DBB60C4F-1ACC-41A9-885F-AB01ABF6DB8E:01}








「そしてな・・・。
心配も想像もできる特異な力は、
人間だけのものなのじゃ」









彼は黙ったままでした。
場がぼんやりと消えて行きます。









彼の地上の肉体が、
今日も目覚めようとしているからです。









「わかったよ・・・」
彼がぽつんと言いました。











「忘れんでくれよ・・・」







長老たちは静かにほほ笑み、
場がゆっくりと消えました。




こうして会議が終了しました。




彼もゆっくり・・・去りました。











    。
           *

    *
                。