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「私の愛が、どういうものか、もう一度あなたに教えてあげます」
白銀の鹿がそう言うと、
ざわついていた周りの音が遠のきました。
狩人は、完全に鹿と二人になったのです。
もう犬の吠声も、銃声も聞こえません。
「この銀色の雪のカケラを見てください」
鹿は杉の木からハラハラ落ちてくる粉雪を見て言いました。
「これは誰にもわけへだてなく降りかかります」
狩人は何のことだかわからずに、
だまって雪を眺めました。
白銀の鹿は続けて言います。
白銀の鹿は続けて言います。
「あの枝の鳴る音が聞こえるでしょう。
この音はどんな誰にでも届きます」
狩人の体は時間が止まってしまったように、動きません。
鹿が空を見上げました。
すると太陽が急に暖かくなりました。
みるみるうちに雪はとけはじめ、
水仙が伸び、小さな黄色いつぼみを開きます。
風はウキウキと通り過ぎ、
鳥は鳴き交わし、小川がポコポコ流れていきます。
ぜんまい、ワラビ、コブシの白い花…。
森は春の香りに満ちました。
狩人に声なき言葉で続けました。
「あなた方の言葉に、私の言葉をのせるのはとても難しい。
これらの森と、私のことを ”私たち”と呼びます。
そしてこの美しさすべてが、私たちの愛なのです。
私はあなたと、あなたの仲間が、
「あなた方の言葉に、私の言葉をのせるのはとても難しい。
これらの森と、私のことを ”私たち”と呼びます。
そしてこの美しさすべてが、私たちの愛なのです。
私はあなたと、あなたの仲間が、
森の動物たちを殺しているのを知っています。
けれどそれを知っていて、あなた方の存在を認めています。
この森の美しさをごらんなさい。
これが私たちの愛なのです。
あなたが何者であろうと、わけへだてなく、包みます。
その時の場合と、条件で、それが変わったりはしないのです」
狩人があっけにとられているうちに、
けれどそれを知っていて、あなた方の存在を認めています。
この森の美しさをごらんなさい。
これが私たちの愛なのです。
あなたが何者であろうと、わけへだてなく、包みます。
その時の場合と、条件で、それが変わったりはしないのです」
狩人があっけにとられているうちに、
太陽は夏になりました。
木陰に育つ甘酸っぱいベリー。
すがすがしい緑の風…。
鹿は続けて言いました。
「さわやかな夏。
夏の美しさも、わけへだてなくやって来ます。
あなたはそれを当たり前だと思うでしょうが…」
狩人はただただ、茫然と周囲を見回しておりました。
やがて白銀の鹿は言いました。
「これが私たちの”愛”なのです。
あなたの口から出るその言葉は、
私が言った”愛”とはまるで違います。
森である私たちのこの力は、全ての者のためにあります。
あなただけのものではありません。
抱きしめられたら、くだけます。
あなたが自分だけのものにしようとする時、
言葉は命をなくします。
鹿がそう言い終わった瞬間、
パパーーーン!
すぐ後ろで銃声がしました。
狩人が身震いすると、そこは元いた冬の森でした。
彼は息をのみ、あらためて目の前にいる鹿を見ました。
そしてやにくもに白銀の鹿に抱きつきました。
鹿はたじろぐこともなく、
狩人に捕まってしまいました。
ウウウウウウウーーーーー!
ワワワワワン!!
犬たちが走ってきます。
「いたぞーーー!」
村人の声が響きました。
狩人は気持ちがぐちゃぐちゃになって思いました。
「お前は俺だけのものだ!誰にも渡したくない!!」
ウウウウウウウーーーーー!
ワワワワワン!!
犬たちが走ってきます。
「いたぞーーー!」
村人の声が響きました。
狩人は気持ちがぐちゃぐちゃになって思いました。
「お前は俺だけのものだ!誰にも渡したくない!!」
そして鹿を強く抱きしめました。
……その時でした。
「パキーーーン!」
白銀の鹿はくだけたのです。
さながら、白い氷の破片でした。
粉々になって、もう跡形もありません。
そのまま雪に倒れました。
犬たちが駆け寄り、鋭く匂いを嗅ぎ回ります。
村人たちもやって来ました。
狩人は雪にうっぷしたままでした。
「お前、いったい何しとるんだ?」
村人が驚き言いました。
彼は顔すら上げられず、
犬たちが駆け寄り、鋭く匂いを嗅ぎ回ります。
村人たちもやって来ました。
狩人は雪にうっぷしたままでした。
「お前、いったい何しとるんだ?」
村人が驚き言いました。
彼は顔すら上げられず、
そのまま雪を見つめていました。
それは雪崩に巻き込まれた時、
死ぬ寸前に見た闇でした。
狩人がぶざまな姿のままなので、
狩人がぶざまな姿のままなので、
村人の一人が言いました。
「こいつ完全にイカレタらしいな」
彼らはあきれかえって去りました。
*
狩人はしばらくそのままでした。
彼には闇しか見えません。
それでも狩人の心の中に、
あの優しい灰色のまなざしが、
いまだ残っておりました。
゚・*:.。. .。.:*
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.。.
.。.:*
・゚ ゚・*:
.。..。.:*・゚゚
・*:.。..。.:*
・゚
完
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