かなりシュールな物語が降りてきました。
泉ウタマロワールドのナンセンス世界をお届けします。
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泉ウタマロ物語:
【コウノトリと、黄色い卵】
今年も初夏になりました。
コウノトリたちが南の地からやって来ました。
*
ある若い雌鳥が、
雑木林のはずれに飛んできました。
するとはるか下で不思議なものが光っています。
「あら・・・?何かしら?」
コウノトリが地面に降りると、
そこには黄色い卵が一つ、落ちていました。
「どうしたのかしら?この卵・・・」
コウノトリがつぶやきました。
すると突然、黄色い卵がしゃべりました。
「僕は希望の黄色い卵。
未知の可能性を秘めている!」
「まあ!」
コウノトリは驚いて言いました。
「でも・・・どうしてこんなところに落ちているの?」
「僕には高い高い空を飛ぶビジョンがあります。
僕の中には高らかに歌う声があります。
あなたはいいな~。翼がある。
でも僕にはない。
あなたはいいな~。くちばしがある。
でも僕にはない。
こんな僕は飛んで行くことなんかできないんです」
「あなただって卵から孵れば飛ぶことができるわよ」
「・・・そうでしょうか?」
黄色い卵は自信なさげに言いました。
*
コウノトリは地面に落ちているこの卵を、
抱いてあげることにしました。
「夏が来て、私が卵を産む前に、この子はきっと孵るでしょう」
コウノトリは毎日毎晩そこにいました。
仲間のコウノトリは高い木の上に巣を作り、
子育ての準備をしていました。
夜になると黄色い卵はコウノトリに言いました。
「僕ね、外の世界に羽ばたいて歌えるようになったら、
みんなが感動するような、美しい歌を歌うつもり・・・」
コウノトリはもう少しでヒナが孵ると思いました。
こうしてますます、つきっきりで温めました。
・・・けれどもどうしたことでしょう。
卵はなかなか孵りません。
仲間のコウノトリはもう子育てを始めました。
*
「ねぇ、黄色い卵さん、
あなたはいつになったら孵るのかしら?」
すると卵が答えました。
「僕ね、もうすぐ出るつもり、
でも今夜は嵐が来そう。
だから今日はやめておきます」
*
夏が来て、コウノトリ仲間のヒナたちは成長し、
飛ぶ練習を始めました。
けれども黄色い卵は、ヒビすら入ってこないのでした。
そして今日はこう言いました。
「あなたはいいな~。綺麗な大きな翼があって。
僕なんか、つまらない小さな卵・・・。
でもね僕、いつか大空に舞い上がったら、
僕の翼の風に乗せ、愛と希望を送るつもり。
でも夕方は雷が来そうですね。
だから今日はここにいます」
*
夏の盛りが過ぎた頃、
コウノトリは自分自身の産卵をあきらめました。
コウノトリはこう考えました。
「私は今年、家族を作ることができなかった。
初めての卵を産むつもりだったのだけど・・・。
でもこの卵からヒナが孵って、
大空を飛ぶ歓びを、手に入れるのは素晴らしいこと。
自分の価値を感じて飛ぶの。
さぞかし美しい歌を歌うでしょう。それは世界を美しくする」
・・・そう思い、黄色い卵を大切に守っておりました。
とうとう落ち葉の季節になりました。
仲間のコウノトリは家族を連れて、
南へと飛んで行きました。
*
あの黄色い卵はどうなったでしょう???
・・・・・じつはまだ、
卵のままでした!!!
*
霜と冷たい風がやって来ました。
コウノトリはじっと卵の上に被さり、
卵が凍えないよう温めました。
卵は絶え間なく自分の夢を語りました。
大きな夢を、素敵な夢を・・・。
*
そしてとうとう雪が来ました。
森も、林も、丘の上にも
深い深い雪が積もりました。
あのコウノトリはどうなったでしょう?
コウノトリは雪の中で、黄色い卵を抱いていました。
いえ・・・正確にお伝えしましょう。
コウノトリは死んでいました。
若いコウノトリが持っていた、
時間と命は尽きたのです。
*
けれどもその体の下で黄色い卵は言いました。
「あなたはいいなぁ、翼があって。
僕なんか、つまらない小さな卵・・・」
完
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皆様、この理不尽なストーリーをどうお感じになったでしょうか?
バカげていて、救いがないと感じますよね。
物語で読むと、ここで起きていることが、
ありえないナンセンスだとよくわかります。
ところが、これが三次元の日常に織り込まれると、
意外にもこの渦中をしばらく生きてしまいます。
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いろんな解釈はこれ以上書かないので
個々に感じてみてくださいね。
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それではまた。