izumiutamaro’s blog

泉ウタマロの新しいブログです。よろしくお願い申し上げます。

物語:俺様ガエルの世界

そのカエルのダンサーは思いきり飛び上がりながら、
舞台を大回りに回転し続けています。
その様子を眺めながら、二匹のカエル紳士が話していました。


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「おい、彼はちっとも衰えないな」
「ああ、それどころか進化している」
「見ろ、あの斬新な決め方!」
「確かにあいつはすごい」

舞台の上では、群舞が流れるように引き、
中心から主人公のカエルダンサーが、極めて精密な回旋で現れ、
中央できっちりポーズしました。
「見たか!この俺を!!この俺の芸術を!!」
その意気が全身から伝わります。



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「ブラボー!!」
「ブラボー!!!!!」
観客のカエル全員が立ち上がり、拍手喝さいを送ります。

紳士二人も拍手しながら会話を続けます。
「今年は芸術監督にも任命されたそうだ」
「ああ、コンクールの審査員も務めている」


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拍手喝采とカーテンコールが続いています。
蒸気した頬の少女のカエルが花束を渡そうと懸命に背伸びしています。
紳士のカエルたちは、その熱気の中で少しだけ冷めていました。
そして片方がこう言いました。


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「でも冷静になって見ると、彼は恵まれた体格じゃない」
「そういやそうだ。背も低いし手足もそれなりだ。顔もなみだな、ノーブルでもない」
もう片方も同意しました。
「そうさ、もっと恵まれているダンサーはたくさんいる。
しかも東の果ての小さな国出身だ」
「だが、彼はまるで自分が神の使いであるかのように振る舞っている」


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二匹は劇場を後にし、バーに向かって小雨の夜道を歩いていました。
「・・・そうだな。彼の成功の秘訣はそこにあるかもな」
「・・・と、言うと?」片方が答えを促します。
「彼は本来ならコンプレックスになりそうな部分を全く見ていない。
彼のフォーカスしているものは自分自身の才能と、
新しい芸術を生み出せる確信さ」


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「そうかもしれないな」紳士たちは石畳の濡れた道で、コートの襟を立てました。
「自分の天才性しか見ていない。彼の才覚はそこにあるんだ」
「憎らしいが今夜はあいつに乾杯といこうか」
「そうしよう」
カエルたちはお目当てのバーに向かって急ぎました。
少し肌寒い、春の雨の夜のことでした。


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コンプレックスなど気づかず、
自分の可能性だけに のめりこむのが才能開花の条件かもしれませんね。
( ̄ー ̄;