その若者は、赤いピカピカのスポーツカーに乗って、
エンジンをふかし、車庫から出てきたところでした。
ドルゥドルゥッ・・ドルゥドルゥッ・・
重低音がその威圧的な存在を周囲に知らしめます。
若者は車と同じ赤いTシャツにサングラス。
車内で音楽にノリノリです。
そこへ小さな息子を連れた、スーツ姿の男性が通りかかりました。
男の子は真新しいランドセルをしょっています。
その親子は奇抜な車と、騒音と、排気ガスにちょっと驚きましたが、
何も言わずにとおりました。
午後になり、二人が外出先から戻ってくると、そのスポーツカーは
未だ同じ状態でそこにいます。
ドルゥドルゥッ・・
けれども、あの若者は相変わらず上機嫌な様子で運転席に座っています。
親子は怪訝な顔をしましたが、
何も言わずに通過しました。
夕方親子は買い物に出かけます。
すると、朝から全く同じ状態で、例の若者がアイドリングを続けていました。
ドルゥドルゥッ・・
若者は車内でカーナビを見つめています。
「ねえ、パパ。あの人どうしたの?」男の子が訊きました。
父親もその騒音と匂いが気になりました。
そこで、勇気を出して運転手に声かけました。
「どうかなさったのですか?故障でも?」
すると若者はフロントガラスを降ろし、サングラスをとって、
陽気な口調で答えました。
「俺さー。ここから海沿い走って富士山見に行く予定だよ!」
「それで・・・出発できないのですか?」
父親は早く出発してくれないものかと思いました。
すると若者はカーナビを見つめながら答えます。
「俺の搭載してるアプリさぁ、全部の信号の色がわかるわけ。
だから俺と、この・・・カーチョス。カーチョスっていうのは車だよ。
スパーーーーンって飛ばしていけるタイミング狙ってるんだ。
赤信号なんかやだからさ!」
「そうすると・・・」父親は言いました。
「すべて青信号で抜けていけるタイミングまで、出発を待っているってことですか?」
すると若者はウキウキ口調で答えました。
「そうさ!俺、ママにも、先生にも言われてきたんだ。
”行く先々のことは・・・全部確認して、段取りつけて、
全部がオッケー!ってなったらそこから初めて行動開始” ってさ!」
ドルゥドルゥッ・・
車は唸って止まっています。
父親は何も言えず、息子の手をひいてそこを去りました。
曲がり角までくると、小さな息子が言いました。
「ねぇパパ。あの人・・・バカなの?」
父親は言葉に詰まりました。
でも最後にはこう言いました。
「そうだね。頭が良すぎて・・・悪いんだよ。きっとね」
親子は夕暮れの街に消えました。
若者は変わらず完璧なスタート時刻を待っていました。
ドルゥドルゥッ・・
ドルゥドルゥッ・・
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すべてが青になるのを待って、
人生費やすことないですか?
(T▽T;)
やれやれ・・・。
はー。。。。