izumiutamaro’s blog

泉ウタマロの新しいブログです。よろしくお願い申し上げます。

分析された花

 
 
 
 

天気のいい夏空の日。

男はめずらしく野原を散歩しておりました。
 
 
 
 
 
 
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「お、もうコスモスが咲いているのか」
早咲きの花が風に揺れています。





「そういえば・・・」
彼はつぶやきました。
 
 
 

「コスモスは綺麗なだけじゃなくて、
なんだかさみしさを理解している花だって言ってたな」
 
 
 
 
 
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彼は病気で亡くした妻の言葉を思い出しました。




「綺麗・・・美しい。さみしさ・・・」
彼はブツブツ言いながら考えます。
 
 
 

「この花のどこにそういうものが含まれているんだろうか?」




彼はコスモスを摘みました。
そして自宅にある研究室に持ち帰りました。
 
 
 
 
 
 
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そこで彼は花びらをちぎり、顕微鏡で見ました。
細胞について深く知るためです。

すり潰し、色素を調べました。
香りを分析し、
葉脈の構造も調べました。





 
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しかしわからないのです。
 
 

コスモスが含有しているはずの
「美しさと、さみしさを理解している」
そのことが・・・。




彼は実験室で一人立ち尽くしてしまいました。
 
 
 
 
 
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◇◇◇◇◇


 

その時ドアが勢いよく開いて幼い娘が入ってきました。
 
 

「パパ!何してるの?」



「パパはコスモスの美しさについて調べてるんだ」
彼が答えると娘は興味深々にそれらを見ました。




そして彼女はすぐに言いました。
 
 

「あーあ、バラバラにしちゃって。
コスモスここにはいないじゃん」




 
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「ここにいないじゃん?」
彼は思わず繰り返します。




「うん。もういないよ」
彼女はそれだけ言うと、走って行ってしまいました。





彼はもう一度研究材料を見つめます。

・・・・・・・そう。
そこには何もありません。
 
 
 

そして亡くなった妻がそばでやさしく笑っている気がしました。
 
 
 

「あなた。私が言ったものは、分析したら消えるのですよ」




 
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その瞬間彼は時間が止まった気がしました。

彼には世界が今までと違って見えはじめたからです。






夏のさわやかな午後のことでした。
遠い空に思い出の人が映りました。





 
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