天気のいい夏空の日。
男はめずらしく野原を散歩しておりました。
「お、もうコスモスが咲いているのか」
早咲きの花が風に揺れています。
「そういえば・・・」
彼はつぶやきました。
「コスモスは綺麗なだけじゃなくて、
なんだかさみしさを理解している花だって言ってたな」
彼は病気で亡くした妻の言葉を思い出しました。
「綺麗・・・美しい。さみしさ・・・」
彼はブツブツ言いながら考えます。
「この花のどこにそういうものが含まれているんだろうか?」
彼はコスモスを摘みました。
そして自宅にある研究室に持ち帰りました。
コスモスが含有しているはずの
「美しさと、さみしさを理解している」
そのことが・・・。
彼は実験室で一人立ち尽くしてしまいました。
彼は実験室で一人立ち尽くしてしまいました。
◇◇◇◇◇
その時ドアが勢いよく開いて幼い娘が入ってきました。
「パパ!何してるの?」
「パパはコスモスの美しさについて調べてるんだ」
彼が答えると娘は興味深々にそれらを見ました。
そして彼女はすぐに言いました。
彼は思わず繰り返します。
「うん。もういないよ」
彼女はそれだけ言うと、走って行ってしまいました。
彼はもう一度研究材料を見つめます。
「うん。もういないよ」
彼女はそれだけ言うと、走って行ってしまいました。
彼はもう一度研究材料を見つめます。
・・・・・・・そう。
そこには何もありません。
そして亡くなった妻がそばでやさしく笑っている気がしました。
彼には世界が今までと違って見えはじめたからです。
夏のさわやかな午後のことでした。
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