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「いえ、本質的な意味においては変わらない・・・という意味ですが」
魔法使いは淡々と答えました。
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この物語は魔法使いと少女の物語です。
1~12章(各章20秒程度で読了可能)
はじまりはこちら→魔法を売る町1
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すると紳士の顔は青ざめました。
「金を取って何も変わらないとはどういう意味だ!」
その言葉には半ば怒りがありました。
そして声を荒げて言いました。
「だいたい、なぜそんなに高い!!」
紳士がそう言うのも、無理もない話でした。
なぜなら、この町中の魔法を集めても、
この額には及ばないほどの金額だったからなのです。
けれど魔法使いにとって、それは想定内の反応でした。
さらに目を細め、ささやくように言いました。
「これは魔法の中の、魔法。
どの魔法より高貴であり、純粋であり、
そしてシンプルなのです」
「相当難しい魔法なんだな?!」
紳士は念を押すように尋ねます。
「いえ、これはただの短い言葉。
ただの短い呪文です」
魔法使いは老紳士をしっかり見据えて言いました。
◆
それを聞いた紳士は頭が混乱し、
しばし黙ってしまいました。
魔法使いの唇の端に、
冷たい笑いが浮かびました。
しかし、それを悟られないよう、すぐに表情を戻します。
◆
カウンターに載っている大きな水晶の珠の中に、
灰色の渦巻が起こりました。
グルグル・グルグルまわります。
フクロウは身じろぎ一つせず眠っていました。
しばしの沈黙が流れます。
◆◆◆◆◆◆◆
外はどうやらいつもの雨の時間です。
今日の雨音はモダンジャズにプログラミングされていました。
♪♪♪
チャッチャッチャッ・・・・・ドラムの雨音リズムが軽快です。
ル・ルールル・ルー・・・・ウッドベースも雨音低く歌います=
♪♪♪
老紳士が混乱したままで黙っていると、
魔法使いは声のトーンを上げ気味に言いました。
「先ほど、何も変わらない・・・・と申しましたが、
見かけが変わる場合はよくございます」
困惑していた紳士の意識は、
再び魔法使いに注がれました。
「なんだ、言ってみろ」
とても厳しい目つきでした。
魔法使いは表情一つ変えずに答えます。
「見かけが変わる・・・というより、
正しくは”見かけが戻る”と言った方がご理解頂けると思います」
♪♪♪
ラ・ルラールラル ラ・ルラールラル
ピアノの雨音がクールな旋律を奏でていきます=
:::
「・・・・つまり」
魔法使いは、ほんの少しもったいぶって言いました。
「本来のご本人ではない部分が戻ります。
例えばこの町で魔法によって変えた部分は
すっかり元に戻ります」
「なんだって!?」
老紳士は青くなり、赤くなりました。
なぜなら彼は何年もこの町に通いつめ、
変えたいところ、すべてを変えてきたのです。
いったいどれだけつぎ込んだでしょう。
彼自身でも計算できないほどでした。
◆
実はこの老紳士、
元はと言えば、小太りのハゲオヤジだったのです。
けれど、「ダンディーでモテる男」をめざしてきました。
ロマンスグレーの髪も、スラリとした長身も、
凛々しい顔立ちも、端正なヒゲも・・・。
すべて魔法で手に入れてきたのです。
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♪♪♪
パーラララララ~~ラァアアアア・・・・・
トランペットの雨音が悲しげに泣きました=
::::
水晶の珠はいよいよ曇り、
灰色、土気色、濁った赤で覆われました。
そして渦の中には、魔法によって変わる以前の、
紳士の姿が浮き沈みしていたのです。
けれどもそれは魔法使いにしか見えない、
秘密の模様でありました。
◆◆◆◆◆◆◆
老紳士は心の中でつぶやきます。
”こいつは何を言っているんだ?
その魔法にかかったら最後、俺は元のもくあみだ!!”
◆
そして魔法使いに動揺を悟られまいと、
顎を小さく揺すります。
「そんな魔法を欲しがる人がいるのかね?」
「ええ、まれに」
魔法使いの目の奥が光りました。
「信じられんな」
紳士は興味なさげに言いました。
「そうですね。大変まれです」
「その魔法は呪文なんだな」
紳士は内心ビクビクしながら尋ねます。
「はい。私がお教えし、お客様ご自身に唱えて頂きます。
そうしないと効力を発揮いたしません」
◆
それを聞いた老紳士は、
ほんのわずかに安心しました。
この魔法使いに、突然自分の姿を戻されたくはなかったからです。
「外見が戻った後はどうなるんだ」
魔法使いは目を閉じ、つぶやくように言いました。
「外見だけではございません。
その呪文を唱えたお客様は、
お客様ご自身の魂の世界を、とても真っ直ぐに感じます」
そして魔法使いは、目をカッと開くと強い口調で言いました。
「その時、お客様は・・・
真実のご自分にお戻りです!」
「その結果として、
ご自分を取り巻く世界が違って見えてくるのです!」
◆
「????」
老紳士には意味が理解できませんでした。
けれど彼はプライド高い紳士です。
「わからない・・・」とは言えません。
◆
「ふん!」彼は鼻であしらうそぶりをしました。
「私はそんな魔法はいらんわ!」
「そうでございますね」
魔法使いは目の前にいる紳士と水晶の珠を見比べて、
とても冷やかに言いました。
「そのお客様、お客様により、必要なものは違いますから・・・」
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この魔法使いに見つめられると、紳士は気分がすぐれません。
彼は店を去りました。
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♪♪♪
タリラリラ・・・タリラリラ・・・
雨音のピアノが憂鬱気味に鳴りました=
:::
一人になった店内で、
魔法使いは水晶の珠を磨きます。
(棚から出てきたシルクの布が自動的に磨くのですが)
やがて水晶は透明な状態に戻りました。
一段落すると、
魔法の杖を一振りし、彼はアフタヌーンティセットを出しました。
ポットは宙に浮かび、同じく浮かんだカップに、
ミルクティを注ぎます。
ポコポコ暖かな香りが拡がりました。
◆
・・・その時でした。
あの重厚な玄関が震えだし、扉が希薄になったのです。
そしてお客が一人入って来ました。
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さーて、ようやく主人公の登場です。
お楽しみに!
( ̄∇ ̄+)
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