先日、晩秋の「八子ケ峰」:やしがみねを歩いて来ました。
私は緩やかなトレッキング程度の
山歩きをしたい気持ちがありました。
歩くのが目的ではなく、
そこにある「森を感じること」が目的です。
登山ではなく、
あくまで散策レベルのルートが望みでした。
いろいろリサーチしたところ、
「八子ケ峰」:やしがみね、
という見晴らしのいい尾根があることを知りました。
しかしながら、一人ではルートに不安もあります。
友人には登山慣れしている方々もいて、
お願いすれば連れて行って貰えそうでした。
が、
あえて私はプロのガイドにお願いすることにしたのです。
*
今回の記事ではその理由と、
森歩きに関し、私にとって必要だと理解したこと、
そして美しい世界をお届けします。
私が申し込みしたのは八ヶ岳付近をガイドする
YATSUトレッククラブ:上田 剛さんでした。
ネットを通じてアクセスし、
電話でYATSUトレッククラブの意図が
私の希望にマッチするのかを確認しました。
プライベートプランなので双方が可能な日で、
天気がベストな日・最適な時間を選びました。
8:30に蓼科湖に集合、
9:00前には登山口から出発。
歩き始めは緩い坂でしたが、
途中から石づくめの急な岩場を登ります。
徐々に尾根に近づくと
美しい林が展開していました。
オーブも写っています。
カラマツが紅葉し、落葉しています。
赤い実に見惚れ、
冷たい大気に包まれます。
私は感動し、進むことは二の次、
そこに浸るのが一番でした。
もうすぐ尾根に出そうです。
でも、この素晴らしい光を浴びなくては!
地面は霜で覆われ、
美しい結晶世界がありました。
私の意識は木々と同調してゆき、
足の裏はやわらかなカラマツ落ち葉絨毯を
心地よく踏んでいます。
この心地がどれほど豊な気持ちにさせるか、
伝わるでしょうか?
とても気高く、愛しい彼ら。
彼らと波長を合わせ、
意識で感じ合うことが私の一番の願いでした。
私の感じた世界が見えるでしょうか?
私が美しいと感じている造形が、
ありとあらゆるスタイルで、
登場しています。
つまり、私にとって森歩きのゴールは、
自分が感動して立っているこの場所なのです。
どこか遠くの山頂ではなく、
今まさにここがゴール。
もし、友人にお連れいただいたら、
その人は先を歩き、遅れをとる私を待ち、
私が追いついたらすぐに歩き始めるでしょう。
・・・でも、
それは私の願いとは違うのです。
私は感動の中に存在できる余裕と、
ボディを休憩させられるタイミングが必要です。
ゴールはまさに「今ここ」です。
山頂ではないのです。
上田さんは私を見守り、
追いついてもしばらくそこに立っていてくれました。
そして、私が
「もう大丈夫です」と言うと歩き始めてくれました。
遠くに小さな山小屋が見えました。
周囲を堪能しつつ
時々座って休みつつ、
ゆっくりゆっくり歩いて、
だんだん見えて来ました。
ヒュッテアルビレオという山小屋ですが閉鎖中でした。
閉鎖は予期していたので
しばらく付近で休みました。
八ヶ岳の稜線が映えています。
尾根は電波状態がいいのでFBをチェックすると・・・
今まさに正面の山の頂上に
友人3名が到着した投稿が入り
思わず笑ってしまいました。
私はいつものように
あてずっぽ撮影で遊びました。
それにしても
素晴らしい晴天のお日和。
風も弱く、初心者が山歩きするには最適な秋の日でした。
プライベートツアーは天気を鑑みて
日取り決定できるのも利点の一つです。
***
ところで背後には「蓼科山」がそびえています。
私は以前からこの名称に違和感がありました。
まるで名前をすり替えられてしまったような、
山のエネルギーとの不マッチを感じていたのです。
すると上田さんが、
この山は「女ノ神山」:めのかみやま
とも呼ばれている、と教えてくださいました。
その名前で私は納得できました。
その上、
この山のお膝元にあるのは女神湖。
道路も名前の由来をあやかって
「ビーナスライン」と名付けたのでしょう。
さらに調べてみると、
地元には伝承がありました。
皆様もご存知の
「富士山と八ヶ岳の背比べ」の、
続きです。
互いに自分が一番だと言い張り
言い争いの絶えなかった富士山と八ヶ岳。
ほとほと手を焼いた神様が
二つの山の山頂に樋(とい)を渡し
真ん中から水を流すと・・・
水は富士山へと流れ、
より高いのは八ヶ岳だと判定されました。
大得意の八ヶ岳にブチキレた富士山は
その樋で八ヶ岳の頭ををぶっ叩き、
とうとう八ヶ岳は八つに裂けてしまった、とのこと。
ここまでは皆様もご存知ですよね。
・・・そして、
その八ヶ岳の妻だった女ノ神山は悲しみのあまり涙を流し、
その涙が溜まってできたのが諏訪湖、であるとの伝承。
*
ですからこの山は「蓼科山」ではなく、
「女ノ神山」が正統名称なのです。
***
じばし休憩し、なだらかな尾根を歩くと、
一番高い場所につきました。
静かに寄り添う木が素敵でした。
ガイドである上田さんとは
以前からの知り合いや友人ではありません。
ですから彼と私の間には距離があり、
歩いている間に個人的な何かをおしゃべりはしません。
私にとってそれはとても必要でした。
なぜなら、
誰かと話したり、
誰かに意識を向けていたら、
周囲の今ここだけでしか会えない彼らを
感じることができなくなるから。
私が対話したいのは人ではなく、
彼ら、です。
それは木々であり・・・
それは空であり・・・
たくさんのススキたちであり・・・
細く続く道であり・・・
山々を渡る風であり・・・
彼ら全てで創り上げている、
晩秋の世界。
私は彼らと同調し、
彼らの世界に浸りたいから歩いています。
西の峰に到着。
***
道は下りになり、
ルートは大きく円を描いてスタート地点へと向かいます。
女ノ神山が隠れて行きます。
西に傾き始めた光を受け林は金色に。
大きなヤドリギがありました。
ガイドの上田さんは
常に黒子的存在で付き添ってくれました。
私にわかったことは、
「私を連れて行ってくれる人ではなく、
私について来てくれる人」が必要だったんだと。
八子ケ峰:やしがみねは
登山慣れしている人にとっては散歩程度のコース、
「ガイドと一緒に行く」と言うと笑われました。
でも私の目標は達成できましたし、
次回は一人でも来れるでしょう。
何が重要なのか認識できました。
ちなみにこのルートは
普通の場合、登山口からのコースタイムは
2時間55分:約3時間。
私の場合、9:00スタート
登山口帰着が14:30頃でした。
なんと5時間30分かかったわけです。
私の山歩きはおよそ2倍の時間がかかる指標になりました。
自分自身を認識し、
これからも適度で濃厚な森歩きをしたいと思います。
それではまた。