この物語には第1話 http://ameblo.jp/izumiutamaro/entry-11607725416.html
第2話 http://ameblo.jp/izumiutamaro/entry-11608386503.html がございます。
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
ある新月の午後、
カレイであるクレーマー・カレイマーは、こっそりと竜宮城の裏にある
秘密の園に向かっていました。
できるだけ誰にも見つからないように砂の中を這っていきます。
それでもウニに見つかりました。
ウニはしかめ面してトゲをむき出し、言いました。
「シッシッ!縁起の悪いやつ。あっちへ行け!」
クレーマー・カレイマーはトラブルを作る、という行為の積み重ねによって、
海の誰からも毛嫌いされていたのです。
。。。
やがて秘密の園につくと、
クレーマー・カレイマーは砂の中から目を出して、
ある方向を見つめます。
サラリン サラリン。。。。。。。。
やがてたくさんのお供を従えた
なよやかで美しい女性が一人現れました。
そうです、
クレーマー・カレイマーは乙姫様(おとひめさま)を待っていたのでした。
乙姫様の黒髪はゆるやかな潮の流れに漂い、
白い頬にはほんのりと赤みがさし、
控えめで優しいまなざしが、周囲の生き物たちに注がれます。
紅のつけられた上品な口元から、時々笑みがこぼれました。
プク。。プクプク。。。。。。
細い体にまとった鮮やかな色の衣装は、フワフワ、フワフワたなびきます。
お供の鯛10匹もなんとおしとやかなことでしょう。
クレーマー・カレイマーはますます砂地に隠れ、つぶやきました。
「俺にとって海の奴らはどいつもこいつも不完全で、失格だ。
でも・・・彼女だけは違う。彼女だけは完璧だ!」
カレイは砂の中からこっそりと目玉を出して、優美な姫を眺めました。
彼にとって彼女は憧れであり、永遠でした。
そのうち乙姫様は、隠れているカレイをめざとく見つけて言いました。
「あら、クレーマー・カレイマー。
そんな所でいじけているのね、どうしたの?
こっちへいらっしゃい」
姫は大きな海亀の背中に腰掛けました。
山吹色の帯がたなびきます。
カレイはうれしさと恥ずかしさで、顔が真っ赤になるはずでしたが、
あいにくぶさいくな土気色のままでした。
「さあ、ここにいらっしゃい」
姫様は白くて華奢な手を差し出し、
カレイにそこに乗るよう促しました。
クレーマー・カレイマーは、はりさけんばかりの気持ちになりました。
そして・・・何も言うことができませんでしたが、
薄汚い色のほっぺたは
だんだんピンクに変わりました。
カレイが遠慮がちに姫の手に乗りますと、
乙姫様はとても優しく言いました。
「私はあなたの仕事を・・・知っていますよ」
クレーマー・カレイマーは悲しさと恥ずかしさでうつむいたままです。
乙姫様は続けました。
「あなたが悪魔の化身のようだと言われているのを、私も知っています」
カレイは相変わらず何も言えずにおりました。
しばしの沈黙が流れます。。。。。。。
タツノオトシゴがやっとこやっとこ通り過ぎて行きました。。。。。。。
そして再び姫様が言いました。
「あなたの仕事は、誰かに認められなければ価値のないものなのですか?」
クレーマー・カレイマーはハッとしました。
そしてずいぶん考え、ごく控えめな声で答えます。
「そんなことはありません」
乙姫様は微笑んでゆっくりうなずき、続けました。
「この海の者たちをごらんなさい」
姫は海底から大きな海を見上げました。
そこにはたくさんの生き物たちが行きかいます。
「今は皆、ああやって元気です。
でも多くの者が数年先には死んでいることでしょう」
不老不死の乙姫様は静かな声で言いました。
「この海を去って、魂の世界に帰った時、
悪魔のように見えたあなたが、
本当は天使的役割を果たしていたことに気づくでしょう。
その時こそ、あながた本当に評価されるのです。
それまで・・・待てますか?」
乙姫様が訊きました。
「・・・・・・ええ」
クレーマー・カレイマーは小さく答えました。
思ってもみなかったこの言葉にカレイは感激しておりました。
しかし何かがひっかかります。
すると乙姫様はするどく見抜いて言いました。
「あなたは奥さんのことを気にしていますね」
するとカレイはむきになって言いました。
「あんなクソババアのことなんか気にしちゃいませんよ!」
姫は驚いたように笑いました。
「あんなクソババアですって?
私はあなたたちがラブラブだった頃を、
昨日の事のように覚えていますよ」
クレーマー・カレイマーはぐうの音も出ませんでした。
すると乙姫様が思慮深いお顔で言いました。
「そうですね。よくわかりますよ、クレーマー・カレイマー。
確かにあなたはしつこくて、嫌味なクレーマーだと思われている。
そして誰からも愛されていない」
「でも・・・」
姫様は少しお考えになり、
優しくカレイの背をなでながら言いました。
「クレーマー・カレイマー。
私があなたを愛しています。
私だけでは不足ですか?」
カレイに電流のような何かが走りました。
姫は続けて言いました。
「たった一人かもしれません。
でも、私はあなたの応援者です」
クレーマー・カレイマーは小さく震えてうなずきました。
「それなら・・・」姫が言いました。
「もっと元気をお出しなさい。
そして行って、皆をかき混ぜて、困らせてやるのです。
さあ!」
カレイは背筋が伸びました。
ただし、這いつくばった姿勢はどうにもなりませんでしたが。
そして喜び勇んで飛び出しました。
新しい誰かの、とてもめんどうなトラブルをつくるために。
プク。。。プクプク。。。。。。。。
プク。。。プクプク。。。。。。。。
海の奥深く秘密の園での出来事でした。
ポコ。。。ポコポコ。。。。。
ポコ。。。ポコポコ。。。。。
*********************
これにてクレーマー・カレイマーの物語は完結です。
第2話の段階で、すでに多くの方が好評してくださったことに
感謝。(*^ー^)ノ
「本」にしてくださいとのリクエストも頂きました。
インチキな絵まで好評でした。
深謝。( ̄▽+ ̄*)
そして、実在のモデルご本人に、深く御礼申し上げます。
ありがとうございました!
おそらく涙読して下さることでしょう。
(*゚ー゚*)