izumiutamaro’s blog

泉ウタマロの新しいブログです。よろしくお願い申し上げます。

恋するユリ

ユリがその晩咲いた時、
東の風がとおりました。

風はほんの一瞬ユリを見つめました。
ユリもわずかに彼を見ました。


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翌日ユリは気分がすぐれないことに気がつきました。

顔色はますます青白く、
ため息ばかりついています。

フクロウの医師が呼ばれました。
診断は「恋の病」ということでした。

ユリは気絶しそうになりました。
「恋ですって?」
思わず顔を隠します。
そしてますますふさぎこんでしまいました。


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ユリの病のうわさを漏れ聞いた森の仲間は思いました。
「もしかして、ユリが恋している相手というのはこの俺かもしれないぞ!」
コガネムシは背中をピカピカに磨きました。

「もしかして、彼女が想っているのはオイラかもしれない!」
カワセミは青い羽の手入れにいそしみました。

一方ユリは日に日に弱っていきました。すきとおって震えています。

もうあとわずかな命でした。

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「私の心はどこにある?」
ユリは自分に訊きました。


そしてあの透明な東の風を想っているのに気がつきました。
それはもう、どうしようもないことでした。
恥ずかしさと切なさの中で彼女は自分を失いました。


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とうとうユリはぐったりうなだれ、花びらの一枚が散り、もう一枚が散りました。

やがてまもなく、彼女は自分を手放しました。
あわれな花は地面に落ちて死にました。
森のみんなが泣きました。

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彼女の魂が天へ上る途中、
あの透明な東の風がとおりました。


「あの人が・・・。
あの人が私の恋した人・・・!」

ユリは初めて知りました。

そう思ったのも一瞬のこと。
彼女はこの世を去りました。

夏の終わりの、秘色色(ひそくいろ)した空でした。

photo:01




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