ユリがその晩咲いた時、
東の風がとおりました。
風はほんの一瞬ユリを見つめました。
ユリもわずかに彼を見ました。
翌日ユリは気分がすぐれないことに気がつきました。
顔色はますます青白く、
ため息ばかりついています。
フクロウの医師が呼ばれました。
診断は「恋の病」ということでした。
ユリは気絶しそうになりました。
「恋ですって?」
思わず顔を隠します。
そしてますますふさぎこんでしまいました。
ユリの病のうわさを漏れ聞いた森の仲間は思いました。
「もしかして、ユリが恋している相手というのはこの俺かもしれないぞ!」
コガネムシは背中をピカピカに磨きました。
「もしかして、彼女が想っているのはオイラかもしれない!」
カワセミは青い羽の手入れにいそしみました。
一方ユリは日に日に弱っていきました。すきとおって震えています。
もうあとわずかな命でした。
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「私の心はどこにある?」
ユリは自分に訊きました。
そしてあの透明な東の風を想っているのに気がつきました。
それはもう、どうしようもないことでした。
恥ずかしさと切なさの中で彼女は自分を失いました。
とうとうユリはぐったりうなだれ、花びらの一枚が散り、もう一枚が散りました。
やがてまもなく、彼女は自分を手放しました。
あわれな花は地面に落ちて死にました。
森のみんなが泣きました。
彼女の魂が天へ上る途中、
あの透明な東の風がとおりました。
「あの人が・・・。
あの人が私の恋した人・・・!」
ユリは初めて知りました。
そう思ったのも一瞬のこと。
彼女はこの世を去りました。
夏の終わりの、秘色色(ひそくいろ)した空でした。
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