モグラの王様はまだなんとか生きていました。
下記がこの物語の(1)です。
(http://ameblo.jp/izumiutamaro/entry-11466991502.html)
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モグラの王様はなんとか生きておりました。
太陽を、そよ風を、雨を、
霧を、春を、鳥の声をののしりながら。
ドロドロの暗闇のトンネルの中、
孤独のままなのでした。
それでも いもしない誰かに命令し、
怒鳴り、すがり、嫉妬していました。
ようやく夏が訪れました。
神様は憐れんで彼に季節をあげたのです。
モグラの王様のトンネルの出口付近に、
白い朝顔がつるを伸ばしておりました。
穢れのない真っ白な花が毎朝一つ咲きました。
王様は朝になると、
その花をトンネルの奥からチラリと眺めました。
花は何も言わず、ただ空にリンと背伸びし、
朝風を吸い、光る露をパラパラふりはらいました。
王様はそれを見ているとなんだか奇妙な気分になりました。
へんに胸がつまるのです。
けれどもそんな思いはすぐに消して、
地中深くに戻りました。
そして・・・自分に、世界に、宇宙に、神に、
呪いの言葉を吐きました。
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朝顔はモグラの王様を知っていました。
そしていたたまれなくなり神様に言いました。
「ああ、どうか神様。
あの哀れな王様をお救いください」
すると神様が答えます。
「哀れな・・・とはどういうことかね?」
「それは・・・」
朝顔は小さな声で言いました。
「あまりにも孤独で、あまりにもさみしく、あまりにも・・・・」
そこで朝顔は言葉につまりました。。
すると神様は朝顔に代わって言いました。
「あまりにも・・・愚かだと言いたいのじゃろう」
朝顔は黙ってうつむきました。
神様は微笑んでいるようです。
優しい声で続けます。
「このすがすがしい夏の空をご覧。
登ったばかりの太陽、
青を突っ切る鳥のつばさ、
ひまわりの声の調整。
薄紫は西に去り、そなたは今日も清い心でそこにおる。
すべてのものが完璧で美しく、
完璧に不完全であり、完璧に個である。
慈悲深い白い朝顔よ。
あの者も、私の一部じゃ。
あの者も、完璧に不完全な私の一部じゃ。
それがわかるかね?」
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次の青い風が通った時、
朝顔はその言葉を理解しました。
彼女は一層背筋を伸ばし、
金色の光を見つめ、
そして・・・一滴だけ涙をこぼしました。
夏の夜明けの奇跡の瞬間のことでした。