ここに年老いたモグラがいました。
彼の名は「モグリン」
小柄でほがらかなモグリンは、自分がもうじき天国に帰ることを知っていました。
「はてさて、最後にやり残しのないようにしなきゃならんな」
モグリンは思いました。
「わしは天国に行く前に、知っておきたいことがある」
この地面の奥の奥がどうなっているかってことさ。
どんなモグラだってそこまで行った奴はおらん。
だが、わしはそれを知りたい。
それが最後のわしの仕事だ」
モグリンは小さな心に決めていました。
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ある晴れた冬の朝、
日の出前に、モグリンは地面からほんのわずかに顔を突出し言いました。
「おてんとさんよう。いろんなもの育ててくれてありがとな。
草も、木もなかったら、わしはやっていけんかった。
チョウチョの季節も、セミの季節も、落ち葉の季節も、寝てばっかりいるイモ虫の季節がなかったら、モグラの仲間は生きていけん。
あんたの顔をまともに見たことはないけども、わしはあんたに感謝しとった」
モグリンはそこで一息つきました。
遠い峰から今にも朝日がさしそうです。
「そいじゃな。わしは地面のいっちばん奥に何があるのか見に行くんでな。
戻っては来れんと思うが・・・。
おてんとさん、風さん、落ち葉さん、雨さん、霧さん、ありがとな」
彼はそう言って穴の中にひっこみました。
朝日は祝福するように、モグラの穴の入り口に金の光を届けたのです。
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モグリンはすぐに出発しました。
ただひたすらに掘り進むのです。それは得意なことでした。
けれど今までと違うのは、横穴ではなく縦穴を掘る、ということでした。
前足で掘り、後ろ足で土をおもいきり蹴りました。
モグリンが行ってしまったことを、
モグラの仲間は知りません。
けれど、仲間たち全員が、心の奥の深いところで、老いたモグリンの望みと、
もう二度と会えないことを知っていました。
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新しい小さな連載です。
何回なのか今は不明。
( ゚ ▽ ゚ ;)
前作よりは短いと思いますよ。
お楽しみに♪
( ̄▽+ ̄*)