人は物質界で生きる時、
物質界視点で自分の資質を評価します。
そして否定した部分を排除しようとするのでした。
するとその時・・・
「何が起こるのか?」を物語仕立てにしております。
◇
この物語は2013年10月に執筆したもので、
破滅に向って一気に駆け抜けるショートストーリーです。
泉ウタマロワールド独特の
質感と迫力をご堪能ください。
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【貫きたい剣士】
ある国に、完璧な剣士がおりました。
剣術はもちろん、容姿、センス、
学問知識でも非の打ちどころのない者でした。
皆が彼のことを「光の剣士」と呼びました。
彼はお城で女王に仕えておりましたが、
自分自身は完璧ではないことを知っていました。
「私は確かに表向きは光の剣士かもしれない。
しかし、私には闇の部分がある。
様々な過去生の中で培われ、
未だ持ち歩いている影の部分だ。
そこにはありとあらゆる醜いものが詰まっている。
私はそれを排除したい!」
◆
剣士は女王に申し出ました。
「私はどんな闇をも貫く剣が欲しいのです。
どうか腕の立つ刀鍛冶を紹介してください」
「どんな闇をも貫く剣ですって?」
女王は不安げに言いました。
「それはやめた方がよくないかしら?」
しかし剣士の熱意に押され、
国一番の鍛冶屋を紹介してくれたのです。
◆
剣士は鍛冶屋に言いました。
「私はどんな闇をも貫く剣が欲しい。
どうかそのような剣をつくってはくれまいか」
「どんな闇をも貫く剣だと?」
鍛冶屋は表情を曇らせ言いました。
「それはやめた方がいいとは思うが・・・」
しかし剣士の熱意に負けて要望に応えてくれました。
◆◆◆◆◆◆◆
そしてある闇夜のこと。
剣士は森の奥の魔女を訪ねて行きました。
それは暗い森でした。
黒々とした木々は、彼をジロジロ見たあげく、
脅かしたりもしたのです。
不気味な風が吹きました。
深夜になり、
うす暗いろうそくの灯りの下で、魔女は待っておりました。
◆
「あんたが来ることを知っとったよ」
魔女はニヤニヤし、
「あんた、闇を見つける方法を訊きに来たんじゃろ」
剣士が話し出す前に、魔女はすっかり知っていました。
「そうなのだ。どうしても私はあれを抹消したい」
剣士は切実な口ぶりで言いました。
「それはやめといた方がいいけども・・・」
魔女は言葉を切り、
その鞘はルビー、ダイヤ、エメラルドなど・・・
「まぁ・・・」
魔女は続けました。
「教えてやってもかまわんよ」
「そうすると、報酬は何が希望かな?」
魔女が取引することを、剣士は知っていたのです。
「今はいらないよ」
魔女はそっけなく言いました。
「でもあんたが成功した暁には、
あんたが残したものの半分をあたしがもらうからね」
◆
そして魔女は剣士に教えてくれました。
≪闇に出会うには…次の満月の晩、
森の古い忘れられた墓地に行き、
ある呪文を唱えるように・・・≫
◆◆◆◆◆◆◆
とうとうその夜がやってきました。
剣士は意を決し、
月明かりが落ち、風もなく、
誰もいない墓地には、
彼は剣を抜き、
やがて崩れかけた塀の向こうから、
「闇」が姿を現しました。
それは茫洋(ぼうよう)とした姿でした。
剣士はするどく言いました。
「待っていたぞ!
今こそきさまを退治して、
その「闇」は逃げもせず、
ただ・・・かすかに震えたようです。
◆
剣士は大きく息を吸い、
次の瞬間「闇」を深く貫きました!
それは確かな手ごたえでした!!
ところが剣士は見たのです。
自分の胸から、
剣は彼の背中から心臓を貫いていたのでした。
彼はバッタリ前に倒れ、
◆◆◆◆◆◆◆
墓場はますますざわめき、
姿のない者たちが音も立てずにグルグルグルグル踊りました。
そして倒れた墓石の裏から
魔女がのっそり現れました。
「バカな男だよ。こいつは。
たいせつな自分の半分を殺そうってんだから。
ま、約束どおり残った半分もらうとするよ」
魔女は死体となった剣士の腰から、
あの豪華な剣の鞘をとりました。
剣士は目を見開いたまま、
月明かりも何も言わず、
◇◇◇◇◇
森の奥、忘れ去られた墓地でした。
ざわざわ風が鳴りました。
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