男は今夜もあの夢を見ていました。
迷路の中を進んで行くと突き当りにぶつかります。
突き当りの壁はドアよりも大きなトランプでした。
カードにはスペードの9「しかし!」とか、
ダイヤの6「無理だし!」とか、
クラブのキング「どっちみち!」などと書かれてあります。
彼がどんなに出口を求めても、いつも最後は行き止まり、
トランプ模様が待ち構えているのでした。
その上、トランプたちが自分の方に迫ってきます。
彼は驚き、逃げまどいました。
しかし、右も左も、後ろも前も、
どんどん狭まり追い詰められます。
もう逃げ場がありません。
「うぁあああああ!助けてくれ!」
彼は叫ぶと、汗びっしょりで目が醒めました。
「ああ、またいつもの夢か」
彼は激しく疲れていました。
月曜の朝、息苦しい満員電車の中で
彼は考えていました。
「あの夢は俺自身の今の人生の状態なのだ」
その夜、またもや彼はトランプたちに囲まれました。
もう身動きできないくらいに追い詰められているのです。
最後にジョーカーが全員に命じ、
すべてのカードが崩れました。
彼は自分が圧死するのがわかりました。
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彼の意識が肉体からさまよい出た時、
下に見えたのはペラペラのうすいカードの山でした。
大きいけれどバカみたいに軽いそれらの一番下で、
愚かな男が死んでいます。
彼は浮遊しながら思いました。
「なんてことだ、
俺は重みもないものに追い詰められていたなんて」
夢から醒めると彼の肉体はまだ生きていました。
「俺に向かってくるものは、なんであろうとトランプだ!
今日から蹴飛ばして!
・・・みようかな。。。」
そのあと彼は、今日も満員電車に乗っていました。
でも、彼の胸の奥の奥には、今までなかった不思議な何かが
小さく芽生えているのでした。
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あなたに迫るカードには
なんて書かれてありますか?
( ̄ー ̄;