その日の午後、
竜宮城にある竜王の御前に海の生き物たちが集まっていました。
皆、一様に興奮しています。
「竜王様、あいつです。あいつがいつも火をつけやがって!」
サメが牙をむき、グルグル回りながら憤っています。
「そうだ、間違いなくあいつだ。
平和な俺たちの暮らしをめちゃくちゃにしやがって!」
タコがウネウネ動きながら真っ赤になって怒っています。
他の魚も、カニも、サンゴも、プクプク小さな泡ぶくでさえ、
一様に許せない形相で「その者」を見ています。
「ようし、よくわかった」
真ん中で思慮深げに聞いていた、竜王が言いました。
「お前は自分の罪を認めるのか?」
竜王が見下ろした先には、
一匹のひしゃげたカレイが、海藻のロープでグルグルに捕えられておりました。
カレイは身動き一つできない状態でしたが、
それでもふてぶてしい目つきで周囲をにらんでおりました。
そして課せられるであろう刑を恐れてはいるものの、
そんなそぶりはみじんも見せず、口をへの字に曲げ、
傲慢な態度で返事もいたしませんでした。
「こいつはもう何年も俺たちのすべてに難癖つけて、
海の平和を乱しやがって。
こんな悪魔みたいな奴は死刑だ!」
クロマグロが猛然と言いました。
「そうだ、そうだ俺たちがどれだけ苦しんだか。
邪悪な奴を死刑だ!」他の者が一斉に賛成しました。
「死刑かね?」竜王は困ったように考えています。
「全員が死刑にしろと?」
「そうです、そうです。
こんな奴は目玉をくり抜いた上で極刑にすべきです」
うつぼが激しくいきまいて言います。
カレイは内心恐れながら、それでも無関心なそぶりでおりました。
「なるほど、それでは」竜王はあらたまって言いました。
「極刑は海の仲間の全員一致でしか行わないことになっておる。
全員死刑に賛成かね?」
「賛成だ!死刑しかない!」
すべての生き物が怒鳴り、潮はゴーゴー回転しました。
「それでは仕方ない。罪深きクレイマー・カレイマーを・・・」
竜王が言いかけたその時、
「お待ちください!」小さく叫ぶ声がしました。
竜王が足元を見ますと、若いカサゴのカップルがそこにいました。カサゴ男子が言いました。
「確かに僕もあの人に翻弄されて、頭がクラクラになって、
そいで気持ちがズタズタになりました」
するとカサゴ女子も言いました。
「アタイもあの人に翻弄されてギタギタな時があったの」
海の仲間は覗き込むようにしてそのカップルを見ています。
「続きを述べなさい」竜王が促しました。
「はい。僕らボロボロな心で、目も虚ろで海の底を泳いでいた時、
ぶつかったんです」カサゴ男子が答えました。
「そうなんです。アタイたちその時出会ったの、
そして今幸せなんです」カサゴ女子も答えます。
「すると死刑には反対だと?」竜王が尋ねました。
「はい、僕らはクレイマー・カレイマーの死刑に反対です!」
カサゴは小さくとも果敢に言いました。
他の者たちの異論が巻き起こり、海全体がゴンゴン沸き立ちました。
「救われたな」竜王が言いました。
やがてカレイのロープは解かれ、ふてぶてしい表情のまま、クレーマー・カレイマーは逃げて行きました。
このお話は海の奥深く。
竜王の御前のできごとでした。
めでたし、めでたし。:*:・( ̄∀ ̄)・:*:
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