その有名な寺院では5年に一度、修行僧の見直しがありました。
そこで成績の悪いごく一部の者は、
修業からはずされ、寺院を去ることになっていました。
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ここに、自他ともに認める優秀な若い僧がおりました。
誰よりも勤勉で師の教えに忠実であり、身を粉にして日々の仕事もこなしていました。
謙虚で、敬虔で、静かなたたずまいの者でした。
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その秋の初め、修業からはずされる者の通達がありました。
ところが驚いたことに、あの優秀な修業僧もそれに入っていたのです。
彼は驚きとりみだし、師のもとに駆けつけました。
そしてひざまずくと涙ながらに言いました。
「なぜですか?私は師を心から敬愛し、信頼し、そして・・・」
あまりの動揺に弟子は言葉に詰まります。
師はまっすぐに弟子に向かって言いました。
「そして・・・?」
弟子はぐちゃぐちゃな感情にあおられて、その続きを話せません。
すると師が代わって言いました。
「そなたもしや、わしを崇拝してはおらんかね?」
「もちろんしていますとも!」
弟子はボタボタ泣きながら答えます。
「そなたはわしが命令したらなんでもするじゃろう」
師は静かに、そして確信をもって言いました。
「もちろんですとも!」
弟子は懇願するように答えます。
すると師は悲しそうに首をふり、ため息をついて続けました。
「だからじゃ。だからこそ、わしはそなたを失格と決めたのじゃ。
尊敬してもかまわん。じゃが、崇拝してはいかんな」
「なぜですか?!」
弟子は納得できず叫びました。
「崇拝は盲信となるじゃろう。
そなたは自らの目を閉じ、自ら考えず、わしの言ったことだけに従うじゃろう」
師は悲しげに言いました。
「それはいけないのですか?」
弟子は師の衣に触れようとしましたが、その指先は震えるだけでした。
師はなぐさめるように言いました。
「それが悪いんじゃよ。
そなた自身が自分の道を選び、考えて進むべきじゃ。わかったかな」
弟子は悲愴な顔で師を仰ぎ見ます。
けれど何も言えません。
師は弟子を愛おしそうに見つめ、最後の言葉を投げかけました。
「これ以上わしに言わせんでくれ。
そなたを失格とすることは、わしのそなたに対する最大の愛なのじゃから・・・」
そして師は去りました。
弟子はいまだ涙を流しながら、呆然と師の後ろ姿を見送りました。
落ち葉が降り始めた、秋の初めのことでした。
遠くでモズが鳴きました。