ある男が死のうとしていた。
本当は何日も前に死んでいるはずだったのに、
男は死に抵抗し、ボロボロの体にしがみついて、
うつろな目で生きていた。
彼にとって死ほど恐ろしいものはなかった。
「ああ・・・死神が来る!死神が来る!」
男は何度も何度も恐ろしさにあえぎ、怯え、苦しんだ。
そして・・・とうとう、その体も限界を迎えた時、
驚いたことに、男は自分の体から 自分自身が
するりと抜け出たことに、気がついた。
ふと見れば自分の周りには、
金色の光を放つ存在が
何人も手を差し伸べていたのだった。
男は驚いた。
「おかしいじゃないか。
俺を迎えにくるのは死神だったはずだ」
金色の存在たちは何も言わずに微笑み、
彼を光でふわりと包んだ。
彼が見下ろすと、抜け殻になった自分の肉体が
病室の冷え切ったベッドの上で
目と口を開いてポカンと無口になっていた。
「俺がしがみついていたものはなんだったのか?」
男は思わずつぶやいた。
やがて金色の存在は彼を故郷へいざなった。
男は最後にふりむきながら思わず叫んだ。
「なんということだ!
これが、死というものか? これが死か? これが…死か!!」