その男の子は地上での仕事を終わろうとしていました。
生まれた時から食べることも、話すことも、
呼吸さえままならなかった彼の体には、
人工呼吸器をはじめ、たくさんの機器がついています。
機械類は規則的に動いていましたが、
男の子の魂は、その小さな体から抜け出る時を知っていました。
病室では彼の両親や祖父母が静かに祈っています。
けれど、大きな翼の天使が現れた時、
それをしっかりと見つめたのは男の子だけでした。
「さあ!」天使が優しく手を差し伸べます。
すると男の子は言いました。
「このバラの香りを連れてってもいい?」
「もちろんですとも」天使は答えました。
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その四季咲きのバラは、
半年前から病室の窓際に置かれた鉢の中で、
一つずつ花開いてくれたのです。
時々男の子が朦朧とした意識で
かすかに目を開けると、バラは彼を見つめます。
バラは言いました。
「大丈夫よ、ぼうや。あなたはすばらしい仕事をしている」
それは本当のことでした。
彼の短い人生は、周囲の人々に多大なものを
もたらしました。
男の子は花から微笑みと香りを得ると、辛い体が癒されました。
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***
「さあ!!」天使が再び言いました。
男の子はバラの香りを抱きしめ、
そして天使に抱かれると、まもなく病室を去りました。
ある、五月の夕暮れでした。